第15話

 今のところ分かっていること。


 ことの発端は民泊マッチングアプリのエアピー&ピーである。

 チャラ男として有名な山田先輩に昨日から夏樹さんは脅されている。

 その内容はバラされたくなかったら「えっちなこと」と典型的なもの。


 うん、ダメだ全然分からない。


 もっというと先程の学校一の美少女による「ギリギリセーフ」発言。

 彼女とは幼馴染であり、長年の付き合いだがこれも全く理解できない。


 まず、一つずつを紐解いていこう。


 だがその前に。


「夏樹さん、有菜から先に聞いてたかもしれないけど、一応俺からも。昨日、後をつけてしまってごめん」



「ううん。心配してくれてたって聞いてるから」


 許してくれたようだ。

 この言い方は有菜がノートのことについて話してない気もするが…………。


 今はとりあえず、本題に入る。



「ありがとう。それでその……有菜はギリギリセーフって言ってたけど、本当に夏樹さんは大丈夫だった?」


「う、うん……」


 どっちか分からない反応が飛んできた。

 あまり意味がないかもしれないが、有菜に視線を飛ばす。


 すると。


「ラブホには二人で行ったらしいけど、えっちなことはしてない……ってこと!」


「そんなことある? 2時間も。それも場所がラブホ……って」


 これだけでピー&ピーの出来上がりだろう。


 夏樹さんは有菜の隣で顔を真っ赤にしながら、話してくれた。


「や、山田先輩がね。その、わたしと、ええっちなこと……するお部屋を決めて…………入ろうとしたら……。隣のお部屋に入ろうとしてる……金澤先輩と知らないおじさんが……いて、それで────────」



 ショートボブの黒髪美少女、夏樹さんの恥じらい混じりの独白タイムが始まった。



 ▽ ▽ ▽


 ふぅ……。

 確かにこれは「ギリギリセーフ」という扱いで良いだろう。


 夏樹さんが恥ずかしがり過ぎて噛み噛みだから、俺が言い直して順番に確認を取っていこう。


 まずは何故、山田先輩に脅されているか、というと。


「エアピーのを間違って────Facebackアカウントでしちゃってた……だと!?

 それもお父さんが経営する潰れそうなラブホを!?」


「………………う、うん。最近、民泊じゃなく……ても登録できるってネットで見て」


 夏樹さんはなんて優しい美少女なんだ。


 恥ずかしがり屋だけど、行動力があって、お父さん想い。

 ただほんのちょっとミスをしてしまっただけ。

 セルフ寝取られ願望なんて決めつけて、本当に申し訳なかった。


 夏樹さんは実名性SNSのFacebackアカウントでエアピーに登録してしまっただけだもんね。


 俺なんかゲームの中でしかフレンドはいないから、SNSはもう会員登録スキップ用のツールよ。



 そして────


「いつもエアピーでできる民泊を探している山田先輩にバレた!?」


「勇緒……あのね、その格安なんとかって言い方やめとこ? ね?」


「ご、ごめん」


 と言いつつも、エアピーの画面を想像してしまった。

 Facebackアカウントをそのまま登録した夏樹さん。つまりショートボブの黒髪美少女、そのドアップの顔写真が丸ぬきアイコンで表示され、本名で「このホテルのオーナーです」となっているんだろう。


 これはすなわち────

『この後、滅茶苦茶〇〇〇した』ってことではない。


 そうではなくて────

『ここで、滅茶苦茶〇〇〇して』ってことだろ。


 なるほど、色々捗ってしまう。堪らないな。


 俺が首を捻りながら唸っていると、夏樹さんが自分から教えてくれた。


「それで山田先輩に……エアピーのことも、お父さんがラブホテルを経営してることも……え、えっちしないと……皆にバラすぞ……って」



 山田先輩、それは完全にやり過ぎである。

 チャラ男というか鬼畜野郎じゃないか。

 とはいえ、山田先輩の行動には違和感を覚える。



 なぜならば。



「そしてわざわざ夏樹さんのお父さんが経営するラブホを選び。部屋に入る前の廊下で山田先輩の彼女、金澤先輩が知らないおじさんといるところに遭遇」


「……う、うん」


「山田先輩は怒って金澤先輩達がいる隣の部屋に行き、夏樹さんは一人で部屋に残った。そして隣からえちえちな声だけを2時間たっぷり聞いてしまったと」


「っあ──────」


 顔を赤くしてこくりと頷く夏樹さん。


 山田先輩がただ肉体関係を求めるような人物であれば、わざわざ美少女を脅迫してラブホまで来たにもかかわらず、2時間も放置するだろうか。


 それに金澤先輩と付き合い始めてから、女の子への声掛けが少なくなったと聞いている。


「山田先輩がついに部屋に戻ってきた、と思ったら丁度、備え付けの電話が時間終了のお知らせ……か」


 ここまでで俺がわかるのは、いつも格安で済ませている山田先輩は3980円以上持っていなかったということ。



 あとは色々と引っかかって仕方ない。


 不自然すぎる……これはに思えてならない。

 だとしたら思っていた以上の代物だし、もうカジュアルに扱えない。

 早く具体的な効果を知らなければ、取り返しのつかないことになる気がする。



 同じようなこともすぐ、有菜に起こってしまうんじゃないのか。


 そうなる前にいっそのこと燃やしてみるか。


 いや、そういえば今日はこの後帰宅したら、アオにチャットして、お姉ちゃんの名前を書いてもらうために、ついでに色々聞こうと思ってたんだった。


 いいのだろうか。そんなこと、本当に。


 俺があんな美少女に……ってないよな、ないない。


 Mっ気たっぷりな妄想をしていると突然、夏樹さんが呟いた。



「…………激しかった」


「ん? 隣の部屋の声、思い出さなくていいよ」


「…………あ」


 顔赤くしてそのまま後ろを向き、更に下に俯く夏樹さん。


 すると有菜が近づいてきて、俺にだけ聞こえるように話す。


「りっちゃんがね、まだ恥ずかしいんだって。お父さんのラブホもエアピーの件も。皆に言われるぐらいなら……ってさ。だからこれからもずっと山田先輩に脅され続けちゃう。ちなみに、だって」


 「………………なんだと」


 それからまだあるぞと言わんばかりの勢いで、有菜はNTRノートのルールの一つを確認してきた。


「勇緒。確かあのノートって切れ端にも効果があるんだよね?」


「そうらしいな」


 不穏な空気が漂う中、有菜は一つのをポケットから取り出して。


「実はさっきね、ここで、こんなもの見つけちゃって」




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