第13話
勢いよく打ち付けてしまった3年C組の扉。
先輩達に殴り込みにきたかのような豪快な音。
その音と同じぐらいの大きさで幼馴染の名前を呼んだ。
そして首を突き出し、教室の中を見渡す。
有菜の姿は────見当たらない。
山田先輩も夏樹さんもいない。ただ先輩達の奇異の目を一身に受けるだけ。
「す、すいませんでした!」
突き出した首を戻し、扉をソロっと逆スライド。
優しい接触音を確認すると、また俺は駆け足で階段を降りて一番居そうな2年B組の中を確認。
今度は窓越し。ここにも彼女達は居ない。
仲の良さそうな女子グループが談笑しているだけ。
女子グループは居場所に繋がる何かを知っているかもしれない。
だけど俺はコミュ障。自分から話しかけることなんてまず不可能。
それに今は「幼馴染パワー」を有菜に見せつける時。
丁度いい。あくまで自分の力で見つけるんだ。
その後、最後に予想していたプールに来た。
水泳部の部室も遠目でチラチラ確認したが、人の気配がそもそもない。
結局、二人どころか誰も居なかった。
プールを覗く不審者、汗まみれ帰宅部。
気持ち悪さに拍車が掛かってきた俺は拍車の掛からない頭を悩ませる。
はてさて、どこに行ったんだ。
今の有菜はNTRノートに名前を書かれている。
一旦落ち着いて、冷静に考えよう。
俺は意地になっている。そもそも本当にこんなことをしていて、大丈夫なのか。
ノートの力、その効果もまだあまり知らないのに。
急に不安が頭を掠る。
誰から誰にどう寝取られるかは分からない。
でも、だからこそ色んな想像をしてしまう。
大切な人の名前をノートに書かれてしまった。
きっと俺じゃなくても、同じシチュエーションになった誰もが考えてしまうと思う。
────自分から、寝取られてしまうのでは……と。
もしそうなら、美少女4人の名前を書いた犯人は彼女たちのことを大切に思ってはいないだろう。
全身から吹き出た汗が冷たくなっている。
ゾクリとする、嫌な感じだ。
ノートを拾った時に見た、山田先輩と夏樹さんの光景が脳裏に蘇る。
妄想が始まった。
頭が勝手に改変を始めた。
夏樹さんの顔が有菜に変わる。
(違う。やめてくれ、お願いだ……)
底しれぬ不安感と焦燥感に襲われる。
胸が張り裂けそう。
(有菜……今どこにいるんだ)
もう普通にメッセージ、いや電話で居場所を聞いてしまおうか。
あっさりと開き直ろう。
ノートの力が怖いからと、それらしい理由を並べ、意地を捨てて。
だって仕方ないじゃないか。
分からないし、怖いんだ。そもそも
その瞬間────
お昼休みの時間、屋上でした会話を何故か思い出した。
『
『あー、よく考えたら別にいいかも』
『なんだよそれ、逆に気になるわ』
『もー。仕方ないなぁ、本当の愛……って話!』
あの時、有菜は「別にいい」と言った。
俺が震え怯えているノートのことなのに、大して重要そうな口ぶりでもなく。
まるでノートの力なんて────どうにでもなると。
そんな風に有菜は思っていたんじゃないのか。
だとしたら俺も、ノートの力なんてどうにでもなる、と思っていなければダメだろう。
全く……これまで何のために帰宅部やってきたんだ。
根暗だと皆から馬鹿にされ続けても、ストイックに帰宅を続けてきただろ。
それに人探しなんて家の中で散々やってきたはずだ。
色んな人から頼まれ、その殆どを好青年ばりに快諾してきた。
たまにフードを被った暗殺者になり、街を見下ろして、豆粒みたいな対象を探す為に高い所にもよく行った。
さっき思い出した場所は屋上。
これまでのゲーム経験もそこに行けと言っているようだ。
これは一旦、彼女達を探す為。
居場所を当てることは出来なかったから、スコアは下がるだろう。
干し草がないから落下は出来ないし、あっても主人公補正がないから落ちたら死ぬ。
そんなダサすぎる俺は走り続けた汗で全身ベトベト。身体中が悲鳴をあげているが仕方ない。
来た道を戻って一番上を目指し、階段も登っていこう。
全力坂ならぬ全力階段だ。
息絶え絶えになりながら、屋上の扉の前まで着いた。
一旦呼吸を落ち着かせ、扉を半分まで開いた。
その時。
「……恥ずかしいよそんなの」
「いいじゃん! 別にそれくらい」
「だって……えっちなホテルだし」
探し求めていた有菜と、真っ赤な顔の夏樹さんが何かを話していた。
雰囲気的にとても気まずい。今話しかけるのは無理そうだ。
「……………………」
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