第12話
教室に有菜と二人で戻るとギョロっとこちらを一斉に見るクラスメイト達。
ヤベェって、どうすんだよこれ。
有菜はギャラリー達を気にすることなく、むしろ聞こえるように大きな声で話す。
「勇緒、さっきの約束ちゃんと守ってね?」
約束? ええっと、ああ。
スポーツドリンクのポカリスウィートのことか。
「……お、おう。 2本だな」
「そう。90点以上をテストで最低2科目ね。成績トップクラスの私が昨日教えてあげたんだし」
「は、はい!」
OK。そういう設定ね。
────って、90点なんて一度も取ったことないぞ。
動揺して周りを見渡す。
高校2年の夏ということもあって、テストという単語自体に敏感なんだろう。
ギャラリー達は興味を失い、意識を現実の戻され、散り散りになったようだ。
ひとまず有菜の機転によって切り抜けられたらしい。
▽ ▽ ▽
放課後。
有菜からメッセージが飛んできた。
『りっちゃんに話を聞いてくるから先に帰ってて』とのこと。
そもそも今日一緒に帰ると約束した覚えはないが、彼女がそのつもりだったのなら悪い気もしない。
だけど、このまま帰っていいものか。
俺たちはNTRノートの影響を受けているんだ。
有菜のフラグは俺がへし折れと言われている。
自信はこれっぽっちもない。
有菜はこんなコミュ障の俺が本当にフラグを折れると思っているんだろうか。
(ん? 待てよ────折らせる気なんて……ない、のか?)
有菜はNTRノートに名前なんて書かれなくても、散々イケメン達を振ってきた。
俺との戦力差はまさに蟻と象。彼女からしてみたら頼ったところで意味はない。
じゃあ朝の約束は何だったのか。
考えられるとすれば、一つ。
あれは、あくまで俺に気を遣わせない為の────ブラフ。
そうとしか思えない。
なんだかやられっぱなしで腹が立ってきた。
要らぬお膳立てだ。次会ったら一言言ってやる。
俺だって、いや、きっと俺の方が長年掛けて色々準備、心構えをしてきたんだ。
どれだけ有菜のことを……。ああ、ちくしょう。
衝動に駆られるままポケットからスマホを取り出す。勢いのまま超高速フリック入力。
『無理、待ってる』
暫く待って返信が来た。
『どしたの? 私、告白でもされる?』
『おう。嘘告で良いならそっちに行くが』
『ふーん。じゃあ見つけて欲しいかも。幼馴染なんだし』
こんな時に自分からフラグを立てに行く有菜。
校舎を走って青春ロマンス、屋上でのCM撮影の続きをしろってのか。
俺の顔じゃフォトショ職人が何人いても足りねぇぞ。
冗談のつもりだったかもしれないが、いいぜ。
その煽り、乗ってやるよ有菜。
『分かった。学校のどこかには居るんだな?』
『そうだけど、マジ?』
『マジ』
『え、何で』
『お前の幼馴染だから 返信不要』
そう返信したのを最後に、スマホをポケットにしまう。
幼馴染……幼馴染パワー。朝、有菜が俺にしたサイドチェストを思い出して、俺も窓に反射する自分自身にサイドチェストをキメる。
さて、走るか。
窓に映る自分をみた時、更にその後ろにいた赤髪の美少女もこちらを見ていたような気がするが。
もっと言うと、ドン引きしていたように見えたんだが。
まぁ、今は気にすることじゃないな。
有菜が居そうな場所を頭の中でリストアップし、順番に走りながら探すのみ。
俺は勢いよく教室の扉から出て行った。
▽ ▽ ▽
有菜の居そうな場所。
一緒にいる相手は同じ水泳部の夏樹さん。
夏樹さんは隣のクラス、2年B組。
今すぐ隣の教室を確認するのが早いだろう。
俺はもう廊下にいるんだし。
だけど、足は2年B組とは逆の方向を向いている。
その先は校舎の真ん中、中央階段。
確率よりも先に不安要素を潰したい。
俺は階段を勢いよく駆け上がる。
一番最初に向かう場所は────山田先輩のクラス、3年C組の教室。
前まで来ると教室の扉は閉まっていた。丸い窓がついている引き扉だ。
中には一つ上の先輩達がいるだろう。
いつもならキョドりながら窓越しに確認するが、今日は違った。
勢いよく扉をスライド。
────バンッ
「有菜ッ!」
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