第11話
女子達からのバックアップのお陰もあり、無事に包囲から抜けれた俺は屋上にきていた。
昼食は購買に寄って買ってきた黄色い携帯食料、カロリーメロメロ。
それを片手に持つ俺と、ベンチに座り膝に弁当を広げて座っている有菜。
彼女が先にここにいるということは教室での出来事、俺とアオのやり取りを知らないはずだ。
どんな用事があるんだろうか。
「やり方がエクストリーム過ぎないか有菜。
それで、どうしたんだ?」
立ったまま、カロリーメロメロを齧った。
「うーんとね。話したいことがあるっちゃあるんだけど。
それより、こうでもしないとご飯、食べれなかったかなって」
「そういうことか……ありがとう」
「どういたしまして」
もっと他にやり方が……とケチは付けられないな。
有菜は俺を助けてくれたんだ。
それだけで十分だし、少なくとも俺だけではあの包囲を突破することはできなかった。
彼女の横に座り、またカロリーメロメロを頬張る。
口が乾くんだよなぁこれ……って────
「勇緒、飲み物は?」
「…………もぐもぐ」
「忘れたんでしょ」
ここで食べ切り、教室に帰ってすぐ置いてきた水筒で水分補給だ。
有菜の追及は咀嚼で乗り切るしかないが……早々に辛くなってきた。
もはや口内が砂漠化している。
頑張って彼女の話したいこと、というのを聞いてみよう。
「もぐ………………んぐんぐ、ほれで……ははひたいほと────」
「はいはい、先にこれ」
渡されたのは飲みかけのペットボトル飲料。俺たちが生まれる前からあるスポーツドリンク。
CMは人気女優への登竜門となっていて、起用された美少女は一躍時の人となる。
今この瞬間を切り取れば、有菜も男女問わず日本中の人を虜にすることだろう。
だけど────
「の、め……るがよ」
「何? 間接キスが恥ずかしいの?」
「………………もぐもぐ」
「今更じゃん。だってあの時、ディープキスぐら────」
「ウ゛ッ……ゲッホゲッホ!」
このCM撮影には大胆な編集が必要なようだ。
俺の顔をフォトショップするのは勿論、少し前の有菜の発言もトリミングが必須だ。
「ちょっと! 大丈夫? 私が飲ませてあげようか?」
「いい゛……わ゛がった! のむがら」
確かに有菜とは小学3年生の頃、ガキ同士にしては随分長いチューをした。
勿論、原因は俺たち二人の親。
俺の実の父と有菜ママがやっていた現場を、当時二人で目撃してしまったのだ。
何か見てはいけないものを見ている、おかしいな、そういう気持ちはあった。
けれど小学生のクラスメイト達にも話せないし、親にも話せないまま半年が経って、4年生になる頃。
次の二人組、有菜パパと俺の母さんも他の二人と全く同じことをしていた。
そしてついに俺たちは「仲が良いとすることなのかも」とモラルハザードを起こした。
人気のない場所で、ということすら真似した仲良しの幼馴染二人。
俺の覚えている範囲ではディープキスまで…………だと思う。
確実に最後まではしていない。それは言える。
どこまで事故ってしまったかの自信が持てないのは、有菜がよく意味深発言をするからだ。
思い出すだけで恥ずかしくなってきた。このままでは変に有菜を意識してしまう。
俺は黒歴史が持つ羞恥心と間接キスへの抵抗感をかき消す為、渡されたスポーツドリンクをビールのCMのような喉越しで飲んでいく。
気づけば半分以上あった中身を空っぽにしてしまった。
「おやおや〜っ? 最後までいったね」
「いってないから!!」
「…………へ?」
まずった。飲み干したことに対して言ったんだよな。
一瞬、俺の大きな声に驚いた様子を見せた有菜だったが、今では何を想像したんだと言わんばかりのにやにや顔を浮かべてこちらを見ている。
「……ちが! これは……これはまた、俺が買っとくから!」
「ふ〜ん? 分かった、その時は2本買ってきて。
一緒に最後まで飲も。だって間接キスは嫌なんでしょ?」
「りょ、了解……それで結局話って?」
「うん。 私、思い出したんだけどね。
喫茶店でりっちゃん達を尾行してたとき、
────キーンコーン。
昼休憩の終わりを知らせるチャイムが鳴った。
「
「あー、よく考えたら別にいいかも」
「なんだよそれ、逆に気になるわ」
「もー。仕方ないなぁ、本当の愛……って話!」
「よく喋ってたな、そういや」
「そうそう、そういうこと! 怒られる前に帰ろ?」
何かはぐらかされた気がする。
本当の愛、か……よく考えてみると実は俺が一番知りたいのかもな。
ふと、そんなことを思ってしまった。
意外に俺は女心が分かってしまうかもしれない。
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