第10話

 昼になった。

 各々が持ってきた弁当か購買のパン、もしくは食堂に行って腹を満たしている。


 しかし俺はまだ、いつもの昼飯を食べれていない。というか買えてすらいない。


 一限目数学の時間、三条さんの爆弾発言が原因。


 俺は今、クラスメイト達にされている。

 席から一歩も動けない。


 半数は女の子達で、野郎共だけじゃないのはまだ救いか。


「あの話ほんとー?」


「吉野ォ! 帰宅部はちゃんとまっすぐ家に帰んねぇとな!」



 おうおう。散々なこった。


 帰ったら帰ったで、俺の部屋は有菜の部屋でもあるんだけどな。

 とりあえず飯食いながら教科書のテスト範囲でも見ててくれよ。


「……違う違う! 有菜とは喫茶店で別の人と────」


「イサ! 大丈夫ですか!?」



 囲まれている俺を真っ直ぐ見ながら、心配してくれる声の主は昨日あった可愛い後輩。もとい俺のネット嫁、『aoringo』ことアオである。


 なぜ2年の教室に来ているのか。


 アオには聞きたいことしかないが、今聞く方がまずそうだ。とりあえず、何も喋らないで欲しいんだけど。



「えー、何あの子! めちゃくちゃ可愛い〜!」


「一年生の青野凛あおのりんちゃんじゃん! かなり有名だよ!」


「イサって吉野のことだよね?! えっ? どういう関係〜?」


「ラブホ前に喫茶店あったよねー? もしかしてそういうこと!? 修羅場的展開?!」




 主に女子達が黄色い声を上げながら盛り上がっている。半分当たっているのがなんともまあ。


 そしてアオは俺の周りの空気感を大体察してくれたようだ。



「アオ……野さん、何か用かな?」


「えっとその、イサ……緒先輩。

 この前借りた政経の、またテスト勉強用に貸して欲しくて!」


 これはNTRノートのことだろう。

 本当に政経用のノートとして俺が使ったのなら、まだ生きている著名人を筆頭に、この社会は崩壊する。


 アオはお姉ちゃんの名前を書きたかったはず。

 俺が特定されたことは怖いが、悪い子ではなさそうだし。

 ただ単に「面を拝んでみたかった」というしょうもない理由だと予想している。


 NTRノートは物騒ではあるけど持ってきたら良かったかな。

 そもそも彼女と同じ学校ということを忘れていた。



「あのノート、家なんだよね」



「わかりました! じゃあ私がきょ……いや、明日! 明日持ってきてくれませんか?」


「分かった」



 アオは空気を読んで完全に「今日」と言いたいところを明日にして、教室を後にした。


 帰ったらゲーム内で彼女にチャットして、今日中に手渡しでもしよう。

 物騒な代物だから、書くだけ書いてもらって俺が保管しておいてもよいけど。


 数秒後、俺のスマホが振動した。


 画面を見てみると、通知が来ている。有菜からだ。


 ただ、その内容は二文字のみ。


『屋上』


 なぜなのか。カツアゲしてくる相手は俺の幼馴染でしたってか。


 周りに見えないように、スマホを隠しながら返信。


『焼きそばパンは必要でしょうか』


『要らない、弁当あるもん』


『行きたいけど囲まれてて抜けるの無理』


『じゃあ通話するからスピーカーにして携帯を耳に』


『あいよ』


 すぐに有菜から通話が掛かってきた。

 指示通りにスピーカーにして、平然と耳に当てる。


 大絶叫の罰ゲームとかじゃないといいけど。



「もしもし?」


「もしもし勇緒、有菜です。

 一人で屋上に来て。私、ずっと待ってるから」



 ────ピッ。


「……………………」


 おい有菜、嘘だろ。

 どうしてくれる。



「「きゃああああああ!」」


「「吉野ォオオオ」」


「ちょっと男子! 行かせてやりなよ!」


「そうだそーだ!」

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