第17話
帰宅。
今日も怒涛の1日だった。
行動力があるということはすなわち、思い切りの良さなんだな。
夏樹さんの発言は勢いのあまり「子作りする」としか聞こえなかったが、正確には「子作りにする」ということらしい。
そして、『子作り』にされるのはなんと────ホテルの名前だった。
その場でお父さんに電話して、ラブホテルの名前を『子作りホテル』にするように提案していた。
お父さんも夏樹さんの提案に乗り、本当にそうなるらしい。
衝撃の改名に俺と有菜が固まっていると、彼女は言った「子作りホテルだったら、いかがわしくない……よね? 吉野くん」と。
少子高齢化社会に歯止めをかけようとする美少女。
俺はこの子の気持ちに歯止めをかけることはできない。
そう思った。
だから勿論、全力で肯定した。
というか俺はラブホでデキた子だから肯定しないと受精卵からやり直しだ。
心が綺麗な人間だったら、いかがわしいなんて全く思わないさ。
そして彼女のこの行動は全てを変えた。
いかがわしくないからお父さんのホテルも恥ずかしくない。
エアピーのスクショがあっても全然平気。
今はもう『子作りホテル』であり、スクショはその変遷なのだと。
結果的に俺は、黒歴史のおかげで今日一人の美少女を救ったんだ。
山田先輩は勿論、これから無視。
連絡先もその場で消していたので、彼女の覚悟を感じた。
ただ、警察に相談することを勧めるまでは出来なかった。
NTRノートのこともあるし、普段の山田先輩が鬼畜野郎とは思えなかったからだ。
また、例の切れ端はノートのとあるページのちぎられた跡とピッタリ一致した。つまり三条さんは正真正銘、このノートに名前を二回書かれていることになる。
有菜にそのことを伝えようとスマホを取ったが、アオに連絡しようとしていたことを思い出して先に帰宅部の活動を楽しむことにした。
既に夕ご飯と風呂を済ませてある。
昨日、ログインしなかったしな。
俺は自室、元は有菜の部屋に申し訳なさそうに作ったダンボールスペースに向かう。
その上にはデスクトップPCとマウス、キーボード。ディスプレイ、そして相棒のドーナツクッションを配置している。
机、椅子は用意してない俺は相棒がないと痔になってしまう。
これでいつも安心だ。早速、座ってPCの電源を入れた。
────『コルネット』ログイン。
コルネットはマルチプラットフォームのオンラインゲームだ。
実はスマホでも遊べる。最近の流行りだな。
だけど俺はスマホにはインストールせず、PCだけでやっている。
早速、ゲーム内のフレンド欄とチャットウィンドウを開く。
どうやらアオ、俺のネット嫁はオンラインだ。
現在地的にボス戦中のようで忙しいと思う。
離婚申請はされていない。
良かった。いや、本当に良かった……のかな。
俺は完全にプロのネカマだと思っていたんだけど。
『ao≫イサ こんばんは』
そしてアオの方が挨拶は大体早い。というか早すぎる。
ゲーム内で知り合って半年、結婚して二日目。
ボスを狩りながら高速チャットができる彼女の手の動きはずっと気になっている。
『isa≫一日ぶり〜!アオ』
そう、ゲーム内でアオとは1日ぶりである。
昨日会ったのはあくまでも青野さん。
名前を呼ぶときに「アオ」と実際に口に出したことはない。
もっとも今日のお昼に「アオ……野さん」と一度言い掛けはしたが。
『ao≫あ』
『isa≫ん?』
『ao≫死にました 合流します』
『isa≫何があったw』
『ao≫(´・ω・`)』
『isa≫どんまい』
いつもの顔文字なのになぜだろう。
背中から冷や汗が出る。
アオでもやられることがあるのか。
というかそんなに強いボスだったか。
『ao≫イサ 質問しても?(´・ω・`)』
『isa≫もち じゃあその後俺からも』
俺とアオはあくまでゲーム内だけの関係だ。
だからこそNTRノートによる可能性、すなわち「アオが現実で俺のことが好き」というありえない妄想を排除したい。
その為にも彼女が知っているノートのこと、また俺を特定した理由、方法を聞こう。
夏樹さんから山田先輩の鬼畜っぷりを聞いてしまった今の俺はNTRノートの力を間違いなく本物であると確信している。
そしてアオもノートの力は本物であるといい、その上でお姉ちゃんの名前を書きたがっていた。
渡すにしても書いてもらうにしても、色々安心しておきたい。
アオはいつも安心感をくれる存在だ。
草(w)生やしまくりのコミュニケーションを取りたい。
だけど。
送られてきたチャットの草に、俺は震えた。
『ao≫1日ぶりって何のことです? 今日もお昼一緒に食べたじゃないですかw』
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