第7話

 根暗ゲーマーを置き去りに随分と盛り上がったガールズトークで意気投合した有菜とアオ。

 きっかり2時間ほど掛かってしまったが、仲良くなってくれたなら全て良し。

 そろそろ本題に戻そう、と提案しようとしたその時。


「────ねぇ、ちょっとあれ! 出てきたんじゃない?」


 ラブホから出てきた待ち人二人、山田先輩と夏樹さん。

 入る前と比べて、夏樹さんの顔の赤らみが取れているように見える。



「うわぁ、3980円」



「いちいち値段言わなくてよろし!」



 有菜から突っ込みが入った。優しいチョップつき。

 

 山田先輩は今、夏樹さんに自分のスマホの画面を見せている。


「ホテル代は割り勘なのでしょうか」


 と、アオがぽつりと呟く。


 気にするところが俺と少し似ていて笑ってしまった。

 アプリの名前に「Pay」とついていれば大体、割り勘にも使えると

 聞くだけでそのように使ったことはない。俺は基本、ぼっちだから。

 スマホの画面を読み取ってくれる相手はコンビニのバーコードリーダーだ。



 割り勘発言でアオも有菜に「気にするのそこじゃないでしょ!」と突っ込まれそうだが────


「…………なんだか息ぴったり。

 って、あちらさん二人はここで別れるみたい」


 今は夕方の6時半頃、そろそろ俺たちも帰っていい時間だしな。

 見ると、夏樹さんは一人で俺達がいる喫茶店の方向に歩いて向かってくる。



「どうする有菜? 夏樹さんから話を聞く?

 一部始終を見ていたことを言わないといけなくなるけど……」


「うーん。今日は私、ちょっと頭冷やしたいんだよね」


「わかった、じゃあもう少ししたら帰るか?」


「うん。そうしよ」


 どうやらこちらも2時間で終了、はないようだ。

 俺たちは山田先輩と夏樹さんに鉢合わせしないように雑談で時間を潰すと、それぞれの家に帰った。


 何故かそのままの流れでノートは俺が家に持ち帰っている。


 アオに聞きたかった3つ目の疑問、「何故、アオが俺を特定できたのかということ」が聞けなかったし、そもそもアオはお姉ちゃんの名前をこのNTRノートに書いていない。


 ガールズトークで忘れちゃったのかな。




 ▽ ▽ ▽


 只今、ベットの上で絶賛フリック入力中。

 相手は有菜、その内容は「アオとの恋について」。


 こうなるとは思っていた。学校一の美少女による鬼のような追及。

 テキストに付く「既読」の文字は俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。


『凛ちゃんとはリア恋なの?』


『違うって。言ったろ、ネカマだと思ってたって』


『鼻の下伸ばしちゃってたじゃん、実際可愛いしあの子』


『そりゃ認めるけど、現実は別だって。アオもきっとそうだし』


『どうだか。ていうか何でゲーム内で結婚なんてしたの』


『機能として実装されてたから』


『現実世界でも実装されてますけど』


『まぁ時がくれば』


『誰と?』


『分からん』


『で、今からそのゲームするの?』


『いや、今日はいいかな』


『いいの? 凛ちゃん、待ってそうだけど』


『別に絶対毎日しないといけないものじゃないし』


『デイリーボーナスは?』


『やけに詳しいな』


『ガールズトークで凛ちゃんから色々聞いた』


『そうなんだ、まぁ今が俺にとってのボーナスみたいなもんだって』


『何がボーナスなの?』


『今のこのやりとりだよ!』


 俺がメッセージを送ったのを最後に、有菜から返信が帰って来なくなった。

 少し早いが寝たのだろうか。まぁ今日は色々あったし、分かる気もする。


 有菜はアオと俺がリア恋だと疑っていたな。

 仮にアオの気持ちがそうだったとしても、俺はその気持ちには答えられない。

 というか、そもそも俺は「希望」かつ「あくまでの関係」って、アオに結婚する前にチャットしたんだ。プロフィールにも書いてた。

 ネカマ希望ってのにめちゃくちゃ草を生やされたのを覚えているし。


(さて、俺も寝るか。色々考えすぎて眠い)


 有菜が中学生まで寝ていたベッドで、俺は寝る。

 中学2年の時、俺達は両親のダブル不倫、その長引いた泥沼問題の結果として、家とお互いの部屋まで交換したのだ。


 つまり俺の部屋は元々有菜の部屋で、有菜の今の部屋も元々は俺の部屋。

 この部屋に彼女の匂いこそもう無いが、内装はなるべく交換した当時のまま。

 俺は最低限の私物だけを端っこに置いてこの部屋を使っている。



(有菜、俺は自信を付けたかったんだ。例えそれが……ゲームの…………)

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