第6話

 仮にNTRノートの力が本物だとして。

 寝取られは何を基準になるんだろう。

 一番愛する人なのか、一番愛してくれる人なのか。

 または交際や結婚という立場が優先されてしまうのか。


 そろそろこの辺りの疑問を解消したい。本題に入ってもいいだろう。

 何かを知っていそうな美少女兼、俺のネット嫁が今隣にいるのだから。


「なあ、青野さん、聞きたいことがあ───」


 ────パタンッ。


 余裕を取り戻した有菜が突然、NTRノートを閉じて俺に差し出してきた。

 無言の笑顔で顎をクイッと動かしながら、カバンにしまうように指示を出してくる。

 俺は閉じられたNTRノートの黒さに若干ビビりながらも、幼馴染の意向に従った。


「……? アオでいいですよ。なんでも聞いてください、イサ」


 やっぱり、呼び方はアオでいいらしい。

 こういう「なんでもどうぞ」みたいな、一歩下がって全て受け入れてくれる感じ。

 これがまさに、彼女をネカマだと信じていた要素の一つだ。

 そもそも俺は訳あって『ネカマ希望』とプロフィールにも書いてたし……。


 なぜなのか。リアルでこんな女の子が存在するなんて。

 

 コルネット内ではネットスラングを器用に使い、それでいてどんなプレイヤーに対しても女神のように接するヒーラー職。割と有名プレイヤー。


 アオは男心をくすぐりすぎる。

 さっきから俺の心が撃ち抜かれまくりだ。


 そんなアオに聞くことは3つ。

 1つ目はNTRノートについてアオが知っていること。

 2つ目は何故、NTRノートを探していたのかということ。

 3つ目は何故、俺が特定できたのかということ。


 本当は俺に会いたかった理由も聞きたかった。

 しかし、を考慮し、辞めておく。

 口で「アオ」と呼ぶのは抵抗感があったから名前を言わないような聞き方で、3つだけを単刀直入に聞いた。



「まず1つ目からズバリ言います。

 NTRノートは────ですよ」


「どうして言い切れるんだ?」


「私のお姉ちゃんが、今の婚約者さんに使われちゃったんです」


「「えっ」」


 ちょっと重い話にならないかこれ。大丈夫だろうか。

 俺たちの心配とは逆に、話しているアオの顔は明るい。


 ノートには「青野」なんていう苗字は無かったぞ。


 もしかして2冊以上あるのか。いや、そんなまさか。

 きっと書いたページを破いたか、切れ端を使ったんだろう。

 別冊の存在を仄めかすルールがあったから否定はできないが…………。



「ああ、婚約者さんはそんなに悪い人じゃないですよ。

 ジョークグッズだと思って好きなお姉ちゃんの名前を書いた、と言ってましたし」


「わかるな〜それ!」


 と、謎に婚約者さんを肯定する有菜。

 だって俺の名前を書いてくれたもんな。


「それに私のお姉ちゃんはそれまで、大の面食いで男選びのセンスが無かったんです。だから前の彼氏達に比べると今の婚約者さんはいい人で、お姉ちゃんを凄く大事にしてくれてますよ」


「そ、そうなんだ」


「はい。よって結果オーライ! 今はとっても幸せそうですよ」


 本当に良かったのか、それって。


「怖いな……もはや人格も変えちゃってる気がするんだけど」


「うーん、どうでしょうか。

 少なくとも私は、そんな風には思えなかったんです」


 本当かよ。だとしたらもっと怖いけど。

 明らかにあり得ない組合せの二人組が、さっきホテルに入っていったんだから。


「へ、へぇ……それで、なんで探してたの?」


「はい、二つ目の質問ですね。

それはお姉ちゃんの名前をまたそこに、

────書きたいからです」


「ドユコトなの」


 全くもって意味がわからない。

 もしかして現実世界でのアオは、お姉ちゃんの婚約者さんのことが好きなイケナイ子なのだろうか。


 そんなことを思っているとアオは少し興奮気味に机に手を置いて言った。


「そうしないと、結婚できないっていうんです!

 ────あの幸せそうな二人が!」


「あ〜! なのか確かめたいってこと?!」


「はい! 仮にノートによって作られた愛だとしても、その力に打ち勝てば、それは本物だろうって」



「きゃああ! なんだか素敵!! それでそれで……」



 謎にめちゃくちゃテンションが上がってる女子二人組。

 こういうのに女の子は弱いんだろうか。


 同じ人の名前が二度以上書き込まれた場合って、肝心なその先が黒塗りされていたはず。

 黒塗りされたところを勝手に想像するとしたら、効果の打ち消しか、また寝取られるとかだろうか。


 どっちにしても本当の愛について語っている彼女達を更に盛り上げそうなネタである。

 今言うのは辞めておこう。このガールズトークは一体いつ終わるのか分からないのだから。

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