第8話
朝だ。
早めに寝たので、いつもより余裕を持って登校できそうだ。
歯を磨いてダイニングに行くと、母さんと義理の父である有菜パパがいた。
食卓には食パンと目玉焼き、ベーコンが並べられていて美味しそう。
「おはよう」
「いさちゃ〜ん! おはよう! すぐ朝ごはんを用意するね!」
「おお、おはよう、珍しいな。こんな時間に」
食卓の椅子に座り、両親の顔を何気なく交互に見る。
────夫婦円満。
この二人はいつ見ても仲が良い。
有菜パパは俺を大事に育ててくれているし、良いお父さんをしてくれていると思う。
二人に対して、何の悪感情も抱いてはいない。むしろこれからも仲良くあって欲しい。
俺はただ、人の恋は一過性であっけないものだと。そう──知っているだけ。
そこに変な期待はしない、それだけの話。
「────いただきます」
いつの間にか目の前に置かれていた、有菜パパと同じ朝ごはん。
俺は食べ物と今の環境に感謝をして合掌すると、朝ごはんを平げる。
(好きじゃ無いものを死ぬまで食い続けたくはないよな)
お腹いっぱいになった俺はそんなことを思いながら「ご馳走様」をいつものようにして、家を出た。
▽ ▽ ▽
玄関先。
誰かいるようだ。
向こうは俺に気がついて手を振っている。
亜麻色の髪が朝日に照らされて輝いている。
そこにいたのは────この家の前の住人。学校一の美少女こと俺の幼馴染の先咲有菜。
察するに、彼女は俺を待っていたようだ。そんな約束はしていなかったと思うが。
「おはよう勇緒。朝、早くない?」
「有菜こそ」
「私がいつも早起きなの知ってるでしょ」
「色々あり過ぎて眠れなかったかなと思って」
「勇緒はどうだったの?」
「そりゃもうグッスリよ」
「あーそーですか」
軽口を言い合いながら、俺たちは通学路を歩いて行く。
有菜はわざわざこんな朝早くから俺を待っていてくれたのだ。
一体どういう用件なんだろうか。
「それで? ただ一緒に学校に行くだけじゃないだろ」
「勘のいい男は嫌いだなぁ」
「えっ、振られちゃったの」
「ふふっ、冗談だってば!」
「やめてくれよ心臓に悪い」
「勿論、凛ちゃんのことの続き。
彼女が現実でも勇緒のことが好きだったらってヤツ」
「だから無いって」
有菜はアオが俺のことを現実でも好きだという方向で話を進めたいようだ。
アオがどうやって俺を特定できたかは知らないが、実際に会って幻滅したんじゃないかな。
あのあとログインしてたら『離婚されました』ってアナウンスが出てたかもしれないぞ。
「もしもの話でいいの。もしそうなら私に提案があるんだ」
「何だよ提案って。
物騒な匂いがぷんぷんするんだが」
「勘のいい男は嫌いだなぁ」
「いや、二回目だからそれ。まあ聞くよ」
そう言うと、隣を歩く有菜の速度が少しゆっくりになった。
俺も彼女の歩行速度に合わせて彼女の言葉を待つ。
「NTRノートによって、これから私たちのネトラレ……いや恋愛フラグが立ちまくる。そう思わない?」
「……うん。何となくそんな気はしてる。
ノートのルールにも寝取られるまで、ってあったしな」
「そう。フラグの立った誰かと付き合ったらいいのかもしれないけど、私たちには苦い思い出があって、それは無理。
特に勇緒が」
「最後のは別に要らなくないか。まぁいいけど、それで?」
「凛ちゃんみたいな良い子を振るなんてこと、勇緒に出来る?」
「……出来るよ。ちょっと精神はすり減るかもだけど」
答えるまでに少しの間ができてしまった。
有菜は不甲斐ない俺をジト目で見る。
「これからもドシドシそんな子達が来るかもしれないのに?」
おいおい、女の子をハガキみたいに言うんじゃねぇ。
俺の彼女は公募制じゃ無いんだぞ。
「あー、健気な女の子達を振り続ける未来か……。キッツイなぁそれ」
「だよね。そしたらさ……。
勇緒も昨日、私に言ってくれたけど」
「うん」
正直、何言ったか思い出せない。
だけど俺が頷いたその瞬間、ニヤリと口角を上げた有菜。
何か良からぬことを企んでいる表情。そしてそれさえも可愛い。美少女の特権だ。
「──────私がそのフラグをへし折ってあげようか。
その代わり、勇緒も私のフラグを折っていくの」
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