第2話
只今、俺たちは例の二人組を尾行中。
本当にこのNTRノートが本物か、それを見極めたい。
二人は一体どんな関係なんだろうという野次馬根性もあるにはある。
だって有菜は夏樹さんとは同じ部活のよしみ、色々と思うところはあるのだろうし。
そうでなくとも、今まさに夏樹さんが山田先輩と入ろうとしている建物。
この展開は有菜でなくとも衝撃を受けることだろう。
何故なら、そこは────
「ラブホだね、完全に……」
「りっちゃん……ほんとに山田先輩と」
目の前のラブホの入口で山田先輩と話している夏樹さん。彼女の顔は赤らんでいる。
二人のやり取りを見て溜飲を飲む有菜。その表情は少し怯え、肩が強張っている。あまりにリアルなこの現場を真正面から受け止めることが出来ていないようだ。
ここは幼馴染としての努めを果たそう。
「休憩? 宿泊? どっちかな」
「……まず、入るか入らないか、でしょ」
「その後に、入れるか入れないか、という問題も」
「────ちょっと!!」
ラブホテルの看板はコスプレ衣装を用意しているといった趣旨のもの。その中にはスクール水着がラインナップとして入っているようだ。
「ふむ、水泳部……わざわざスク水に着替えるんだろうか」
「なに? 勇緒はスク水が好きなの?」
「大変お好きで御座います」
「……ふ、ふぅん。それにしては市民プールに遊びに行こうって誘っても来ないじゃん」
そう、よく有菜からは市民プールに誘われる。
誘われるときクラスの人達が聞き耳を必ず立てているので質が悪い。その後、俺に男子達の罵詈雑言混じる追及が俺を襲うのだ。あれだけはYESと言えるわけがない。それに────
「幼馴染をそういう目で見るのは、ちょっと……」
「あーあ、言うと思った。まーだ気にしちゃって」
「ま、まぁな……複雑すぎるし俺達」
有菜と俺の間には幼馴染という関係以上の────呪い、言い換えれば黒歴史が2つある。
一つはお互いの両親が知っている俺たちの黒歴史。
当時、小学生だった俺たちは性知識が浅く、それがエッチなことだとは知らなかった。完全な事故である。
そしてもう一つはその発端。何故俺たちがそんなことをしたか、だ。
原因は俺たち二人共の両親に他ならない。俺の父と有菜の母さん、有菜の父と俺の…………いや、それはもう昔の話か。
有菜の父は俺の父になり、俺の父は有菜の父になった。大胆なお父さん交換だ。
そんなこんなで俺たちは非常に複雑な関係の、一応、幼馴染で。
「理由はそれだけ?」
「もう一つは、あとが怖いからっていうのもあるかな」
「怖い? 別に取って食おうなんてしないのに」
いやいや、食われるんだよ、それが。
主に俺が買った焼きそばパンが、屋上でな。
そうこう話している間に夏樹さんが意を決したのか、山田先輩と二人でラブホに入っていく──
「「あ……」」
見てはいけないものを見てしまった。
壊れかけのロボットが首を旋回させるかの如く、ゆっくりと俺たち二人は顔を見合わせた。
沈黙、長い長い沈黙。
そして、この沈黙を打破すべく俺は提案する。
「出てくるかも知れないし! あそこの喫茶店にでもいよう!」
「りょ、りょーかい」
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