NTRノート◆書かれた人は寝取られる◆学校一の美少女は書かれた腹いせに幼馴染の俺の名前を書いたようです
荒ぶる米粒
第1話 プロローグ
俺、
似合わないのを分かっていながら頬杖をついて外のグラウンドを見下ろしている。
漢文の授業が単純につまらなく、身が入らないのだ。
高校2年の夏休み前。
今週はテスト週間で部活動もないらしいが、帰宅部の俺にはなんの関係もない。
帰ればオンラインゲームに勤しむだけだ。今、ちょうどいいところだし。
外を見ながらそのことばかりを考えていると、突然隣の席から声を掛けられる。
「勇緒、今日一緒に帰れる?」
聞いてきたのはこのクラス──いや、この学校一の美少女、
俺の幼馴染である。勿論、答えはYES以外にありえない。
根暗ゲーマが社会性を保てる、その最後の砦。彼女を蔑ろにしてはいけない。
振り向いて返事をしよう。オンラインゲームにログインするまでの時間が多少伸びるだけだ。
「うん、もちろ────」
振り向く直前、奇妙なものが俺の視界を遮った。
それはグラウンドに落ちていく、一冊の黒いノート。
(…………なんだあれ)
「どしたの?」
心配そうに聞いてきた有菜は眉を寄せて俺の顔色を伺っている。
亜麻色の綺麗な髪を腰まで伸ばし、夏服の袖から出る腕は白く透き通るように美しい。彼女は宝石のような大きな瞳でこちらを見ている。
こんな美少女が幼馴染なんて、俺には勿体無いといつも思う。
「いや、なんでもない」
「ふ〜ん? じゃあ放課後で。
あんまり夜中までゲームしちゃ駄目だからね?」
「お、おう」
俺たちの何気ない会話を嫉妬の眼差しで見てくる大勢の男子諸君。
授業中の私語だったことは謝りたい。先生までこちらを見ているようだ。
先生、貴方が向けているその眼差し、その歯軋りは本当に私語厳禁の戒めのものだろうか。
「────こほん、えーっと次の問題は…………」
そうして、有菜と約束の放課後を迎えた。
▽ ▽ ▽
放課後になってすぐ、有菜は友達に捕まっていた。
仕方がない、いつものこと。有菜はぼっちの俺と違って人気者なのだ。
それに高校生になってから、本当に彼女は綺麗になったと思う。出るべきところは良く出ているし……ってやめろやめろ。そんな目で幼馴染を見るなよ俺。
邪な目をスマホに移し、フリック入力。「グラウンドで待ってる」と有菜に連絡して、校舎から出た。
どうせ待つ時間があるのなら、あの黒いノートでも探してみるか。
(確かこの辺に落ちたよな……)
予想通り、黒いノートはポツリとグラウンドの隅っこに落ちていた。誰にも拾われなかったようだ。
(えーと、なになに? って────
なんだこのイタズラノートは……。
古いんだよネタが。
チャラ男は林檎しか食わないってか。
所々破かれてるし……それでいてそこそこクオリティ高い。
ちょっとめくってみるか。
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〜NTRノート〜
†このノートに名前を書かれた人は寝取られる。
†名前を書かれた人が誰かに寝取られるまで効果は継続する。
†寝取られる対象は頭に思い描いた一人のみ。同姓同名の別人に効果は発揮されない。
†寝取られ方法は別冊、■■■■■■によって■■■■■■できる。
†同じ人の名前が二度以上書き込まれた場合、■■■■■■。
†このノートから破った切れ端はその大きさを問わず、一人にしか効果を発揮しない。
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要所要所が黒塗りになっている。これが本当なら重要なポイントだと思うけどな。
えーっと。どれどれ、書かれている人は……と。
次のページをなんとなくめくった。
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夏樹里穂
三条木葉
来栖時雨
先咲有菜
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4名しか書かれていない美少女名簿。
その最後に書かれている俺の幼馴染の名前。
うん、なんとなくそんな気はしてたんだ。
だって彼女の美貌が学校一だということは色んなところから耳にするし。自分が彼氏になれなくても、その手の妄想でお腹いっぱいになろうって輩がいることぐらい想像できる。
(でも、有菜に彼氏なんて…………)
その瞬間、俺の目の前を通り過ぎる信じられない組合せの男女二人組。
3年生の有名チャラ男、山田先輩とショートボブの黒髪美少女、
夏樹さんの顔がめちゃくちゃ赤くなっている。ナニコレ、どうしたの。
確か、彼女はサッカー部の室斑と付き合っているはずだ。
美男美女の熱々カップル。昨日も廊下で楽しそうに話してたのを見た。
おかしい。
意識すればするほど悪寒がゾクリと全身を駆け巡り、それは鳥肌に代わる。
もしかして。
────本物、だっていうのか。
表紙が真っ黒な『NTRノート』、その力を示すかのように目の前の通り過ぎたチャラ男先輩と黒髪美少女の二人組。
冷や汗がだらだら流れ、ただただ震えている。
するとタイミングがいいのか悪いのか、待っていたもう一人の美少女。
有菜に後ろから声を掛けられた。
「勇緒〜! おまたせ〜! 帰ろー……って何持ってるの?」
「えっと……これは……その、今拾ったんだけど……」
そう言いながら有菜と顔を並べ、おずおずとノートを広げて見せる。
彼女は満面の笑みを浮かべながらそれを見て、楽しそうに話す。
「良く出来てるねー! りっちゃんの名前発見! …………って私の名前も書かれてるし!」
「そうなんだよ……しかもさっき、夏樹さんと山田先輩が2人一緒にいてさ」
「本当!? 接点なんてなかったと思うけど……」
有菜とりっちゃん、もとい夏樹さんは同じ2年の水泳部。二人の美少女はその容姿故、セットで語られることも多かったりする。
仲も良いと有菜から聞いていた。
だが、実は一年生の時は有菜一人しか目立っていなかった。
夏樹さんは2年生に上がって室斑と付き合い始め、急に綺麗になっていったんだよな。
あんな風に有菜も誰かと付き合い、夏樹さんみたいに綺麗な女性になっていくとして。
俺は素直に彼女を祝福できるだろうか。
「有菜も知らないか、ちょっとゾッとするな」
「でも普通に喋ってただけじゃないの? こんなノート、ただのイタズラだって!」
「…………」
「もしかして信じちゃってるの、勇緒?」
「そんなことは……ない! けど、もし本物だったらさ」
というと、有菜はニヤニヤした顔でこちらを見て、
「────今度は私のことが心配、って? 彼氏なんていないけど?」
「いやぁ、ほらでも……さ」
「私が誰から誰に寝取られる?」
「………………」
確かに、有菜のいう通りだ。寝取られる要素がない。
それに俺は有菜と恋人じゃない、彼氏面してるのは何なんだ。
恥ずかしいヤツ。昔から知り合いだったぐらいで……。
「わかんないよね。恋人がいない人の場合はどうなるか、って」
「うん」
「そしたら、二人で確認してみようよ。
どうせジョークグッズだし! 勇緒も彼女なんていないでしょ」
そう言いながら有菜は油性のサインペンを鞄から取り出す。
まさか書くのか、幼馴染の名前を。
俺を寝取りたい人なんてどこにもいないぞ。
いや、逆に書かれたことでモテモテになったりも……するのかもしれない。
待て待て。早まるな童貞。予行演習はゲームの中、妄想は家の中だけにしよう。
「え、いやそれは……」
「私だけなんかずるい! 勇緒の名前も書いちゃおっと!」
「ちょ、ま……待って!! もし本物だったりし────」
こうして、俺たち幼馴染二人がお互いのフラグをへし折る日々が始まったのである。
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