第8話 猿の心中

明智が謀反を起こした。御館様が亡くなった。俺は耳を疑った。「明智が謀反」ということを理解できなかった。俺にとって一番謀反と遠い存在だと思っていた。彼の御館様に対する狂信を見ている者ならば皆そうであろう。

今までの明智は全て演技だったとでも言うのか。ハゲと罵られようと、殴られようとアイツの目は真っ直ぐと御館様を見ていた。その目はいつも希望を宿していた。俺はたまにそれが恐ろしかった。俺が織田信長という武将を越えられないとするならば、最後の壁が明智だからだろうと感じていた。

しかもアイツはよく出来るやつだ。自領の政も上手くいっているらしく、民からの信頼を十分に得ているという。それを失うかもしれない、今までの事が全て無に帰るかもしれない。しかしアイツは謀反を起こした。

何を考えている。何をしようとしている。俺には分からない。何にしても俺は御館様に仕えた者としてヤツにオトシマエを付けさせなければならないし、何より絶好のチャンスだ。今明智を討てば、中国平定なんかよりよっぽど大きい成果になる。毛利のおっちゃんには締りが悪い形になってしまって申し訳ないが、一応理解を示してくれた。あれはいい武将だ。

あと少しで明智に追いつく。首を跳ねる前に問いただしたい。何故あのタイミングで謀反を起こしたのか。真意は何なのか。もしや気づいていたのか「アレ」に。明智なら有り得る。


いいぞ。今全てが俺に有利だ。追い風を使わない手はない。

「秀吉さま、この調子ですと、おそらく山崎辺りで明智軍とぶつかるかと」

「あいわかった。皆の者に次の戦が近いことを伝えろ!毛利の時の幾倍も気合いを入れる大戦さだ!!!」


猿は己の野望を胸に、ただひたすらに疾走していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

なんか本能寺から出れんのですが 赤坂大納言 @amuro78axis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る