第5話 御館様と狂信老将

どうも、本能寺監禁が始まって四日目です。外の様子が分からないので本当に四日目なのかは分からないけれども、とりあえず私の起床をもって今は一日経過としてます。


今日は壁を削っていく日とします。短刀ではやっぱり大した進捗は産めないんですけど、まぁそれでも他にやることないんで、ちまちまやっていきます。壁画とか彫るのも面白そうだな。え、いいんじゃない、それ。そうしようかな。自画像とか彫れたらかっこいいよね。いかにも第六天魔王感あるすげぇやつ彫ろうかな。


どうよ!壁画彫ったった。自画像です。みんな見える?凄いでしょ。一応寺なんで観音様みたいな顔にしてみたんやけども。というか描き始めて気づいたけど、私あんまり自分の姿見たことないかもしれん。鏡とかそんな見てなかったな。というか安土あるんかな、鏡とか。南蛮人が持ってきた調度品にあったような気もするけど。基本御神体のイメージあるからな鏡。畏れ多いからあんまり見てなかったな。今度見てみよう。肖像画描いてもらったやつ見たじぶんの顔を頼りにして彫ったけど。まぁえぇんちゃう?素人にしては上出来じゃないか。


そういや結界ってこの短刀で壊せないんかな。まぁ魔術を物理でとかそんな脳筋みたいな解決方法が成功する気はせんが、どうせやること他にないし、やってみっか。いやどうもまだ火の中に入るのは馴れないな。すんごい熱そうだもんな見た目。よし結界はどーこだ。あ、あった。これか。刺せるかな。行くぞい、とおっ!え、通った!壊せるんじゃねこれ。おりゃ!おりゃ!




一方その頃。

「光秀様!結界に異常が!」

部下の報告を静かに微笑みながら聞く老将。仁王立ちし、未だ燃え盛る本能寺から離れることは無い。

「まぁそれは殿ならそうなさるわな」

老将は少し楽しそうにも見える。

「良い、そう簡単に破れるようにはできておらん。案ずるな」

「はっ。それともうひとつご報告が!」

「分かっておる。秀吉だろう。良い、やつとの決着は山崎でつけることになっている。そういう手筈だ。下がって良いぞ」

老将は謎の紋様が記された書物を開いた。

「うむ、ここはもう良かろう。殿は強いお方だ。必ずや真の第六天魔王となって下さる」


人と天上を繋げ、極楽へと人々を導く。そんな大業を為せるのは、天下を手中に収めた御館様しかいない。彼こそが私の求めた天下人。人の姿をした神。どんなことにも耐えてきた。彼の側にいて、彼の為さんとすることを常に信じ、ついて行った。母を見捨てられようと、ハゲと罵られようと、手酷い折檻を受けようと、それに耐えついて行く価値のあるお方であった。しかしひとつ不満があった。

「なぜこんなにも素晴らしいお方が、まだ人の姿なのか」

人の姿のままでは、いづれ来る限界を超えられないかもしれん。彼は天下人などで収まるお方では無い。彼はいづれ天上人にさえなれるはずだ。そういう覇気を、息をする度に漏らしていらっしゃる。周りの阿呆は何故かそれに気づかない。馬鹿なのか?殿のうつけは演技だった。アイツらのうつけは本物だ。自分が武勲をあげることしか脳にない。全く不快だ。自分が誰に仕えているのかを理解していない。いやできないのかもしれんが。

あの猿などはもってのほかだ。下手したら裏切りかねん。あいつに天下を任すなど有り得ない。

天上天下唯我独尊。第二の仏陀。第六天魔王!あと少しの辛抱だ。人々の安寧の世も近い。


老将は勢いよく愛馬で駆け始めた。

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