第10話 芦田の大学合格

 十一月の下旬に芦田は、無事に慶應義塾大学に合格した。

広教が出来る応援は、小論文を見てやるぐらいしかなかった。何度も芦田の原稿を添削し、アドバイスする。芦田は、もともと学力が高かったので、広教の少しのアドバイスで、見違えるように文章力が向上した。


 夜遅くに芦田から電話がかかることもあった。そんなときは、とりとめもない話を長い時間、聞くことになる。あまりに長いと、広教は時折、寝てしまいそうになり、ちゃんと聞いてないでしょと叱られることもあった。


 広教が放課後に地学研究部の部室に行くと、芦田が二人の二年生に勉強を教えている。長机に並ぶすずかとあかりを前にして、芦田は英語の質問に答えていた。

 進路が決まった芦田は、広教に部室でクラブの二年生の二人に勉強を教えてよいかと尋ねてきたので、かまわないと返事しておいた。芦田が言うには、すずかの家が経済的に厳しく、塾に行く費用を出してもらえないとの話を聞いて、それなら自分が分かる範囲で教えてあげると言うことになった。あかりは塾に通っているが、塾のない日は一緒に教えてもらいたいと言うことで加わっているのだった。

 

 図書室で勉強する三年生がいたが、五時で閉まってしまうため、遅くまで残って勉強できる場所がない。部室では、顧問が許す限り勉強できるので、二年生の二人は毎日のように勉強に来ている。二人とも、今から国公立大学合格を目指してがんばると言っている。

 広教はこの二人をしっかり応援してあげようと思う。三年生の自分のクラスの生徒も、これからの一般入試を受ける。自分が浪人生活をしていた苦しかった一年間を思い出して、みんな現役で合格して欲しいと願っている。

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