第9話 校長のパワハラ
津村の一件があってから、広教は他の教師から、仕事が出来ない教師というレッテルを貼られてしまった。話しかけてくる教師もいなくなり、気がつけば、職員室で一人でぽつんと座っているという状態になってしまった。
教員同士で協同してする仕事が多いので、仕事がやりにくくなった。
しかし、それは自分ではどうすることも出来ないことなので、放っておくことにした。せめて、自分の担任するクラスの生徒が、自分のせいで不利益を被らないでいてほしい、そう願っていた。
ある日、よし君の担任であった新人教師の斉藤から、ぜひ話を聞いてほしいと言われた。一緒に学校を出て、学校から離れた地域まで行って、カフェに入った。
「校長から呼び出されて、吉田君が亡くなったことを責められたんです」
「えっ、よし君のこと?今さら、なんで?」
「担任がしっかり子どものことを見ていないから、生徒のSOSを見逃したんだ、お前の責任だと言って、ずいぶんきついことを言われました」
斉藤は話しながら、思い出して感情的になったのか、声が震えだした。
「校長、俺に言ったのと同じようなことを君にも言ったのか」
「先生にも言ったんですか?」
「ああ、退学した女子生徒がいただろう?あの時に校長室で二時間近く怒鳴られたよ」
「本当ですか、それはひどい。僕よりもきついですね」
「よし君のことも、退学した生徒のことも、どうにかできたということではない。なのに担任の責任だという」
「だから、気にするな。校長のあれはパワハラだから、今度また呼びつけられたら、録音しておくようにな」
「録音ですか?わかりました、そうします」
「あの性格では、また同じことを言ってくる可能性が高いからな」
「偉そうに言ってるわりには、中身のあることはひとつも言ってないですね」
「まともに相手したらメンタルをやられるから放っておくようにね」
「なんであんな人が校長なんですか?」
「わからん、それは県教委に聞いてくれ」
「それよりも、よし君のことがあってから、クラスの方はどう?上手くいってるか」
「最近、やっと明るくなってきたように思います。しばらくの間はクラス全体が、変な雰囲気で」
「犯人捜しみたいなことが聞こえてきて」
「よし君をからかったり、いじめた奴がきっといたんだろう」
「そうかもしれません」
「これからも大変だな。困ったら相談に乗るから。学年の教師にも手助けしてもらえよ」
「はい、そうします」
「校長のことばは気にしなくていい。また何かあれば、教えてくれ」
土日が部活動の練習や試合でつぶれて、なかなか疲れが取れないとこぼす斉藤を、ぼちぼちでいいんだよとなだめて、食事を一緒にして別れた。
その後間もなく、斉藤は学校に来なくなってしまった。体調が悪く、しばらく休職するとのことだった。学年の事情通の教師にそっと聞いてみると、校長からまた呼び出されて長時間、説教されたらしい。その次の日から出勤できなくなったようだ。鬱の症状があるということで、半年は休職するそうだ。
また、パワハラか、広教はその話を聞きながら、そう確信した。一度、斉藤に電話を掛けたが、出なかった。斉藤は大丈夫だろうかと案じた。
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