第5話 電離層の中の海竜


 いまだこの計画に気づいていない軍、警察関係者や空港関係者は、大規模な龍機の軍隊を派遣するつもりでいる。


「俺は行くぞ!」


「やめとけ遊鬼! 軍隊に任せろ!」


 空港の管制室で議論が紛糾している。


「あいつは俺の許婚なんだ! 俺は助けに行く!」


「よし、わかった君も連れて行こう! 今は戦力がもっといるからな」


「遊鬼が行くなら、俺達も行く!」


「待ってろよ、チエミ!」


「夜中は二次遭難になる可能性がある。出発は早朝五時、いいな!」


「了解!」


 

「遅いな。予定よりも」


 『DW養成学院』の教官一条伊織は管制塔のレーダーを覗きこみながら呟く。


「来ました!」


 龍機魔女の一人が叫ぶ。龍機の機影がレーダーに映りこむ。それを見守る事しばらくして、次々と龍が滑走路に降りてくる。勿論それまでに野龍との間に戦闘が有った事は言うまでもない。龍機からドラグマンに変身して、遊鬼達は管制塔に上がってくる。


「チエミは何処だ?!」


「遊鬼君。彼女達の所に案内しよう」


 伊織は、遊鬼達『D-7』を連れて地下の卵の所まで案内した。


「チエミ!」


 十字架に磔になっているチエミと典子と戯の三人。


「一条さん! どういう事だ!」


「この卵の孵化の為に必要なんだよ。あの三人の魂が」


「まさかこの卵、旧大戦の発端となった『クンダリーニ』の卵!」


「でも、どうして!」


「わからんのか?! 早乙女チエミ他二名を龍機魔女にする為の儀式なんだ」


「この体験入学がか?!」


「そうだ。毎年選ばれた人間が大王龍『クンダリーニ』の魂となるべく此処で生け贄になる」


「どういう事だ!」


「まぁ、見ていろ……。起きろ! 早乙女!」


 伊織の言葉で正気に戻るチエミ。


「……ハッ! えっ?! 遊鬼君! どうして此処に?」


「やれ」


 伊織の言葉に従い、龍機魔女の一人が自分の手に呪文で創造した光の槍を持つ。そして、その槍を投擲する。


「止めろぉぉぉぉぉ!」


「キャァ!」


 その瞬間、チエミ達の体から荒魂が離れた。光の槍は、チエミの体を通り抜ける。


 荒魂。四魂一霊の理論を構成する魂の一つである。これは優しい魂である和魂とは正反対に怒る魂だ。


「捕まえろ!」


 伊織の命令でその魂を龍機魔女の呪文で出来た光の糸のネットが捕縛する。


「ご苦労。全て済んだよ」


「フーッ……」


 アウと剣城あげはが長嘆息する。


「あれ?! わ、私生きてる……」


「どういう事だ説明しろ!」


 遊鬼がいきり立つ。 


「どうやら説明する時が来た」


 伊織がサングラスを外す。


「これは推薦入学の試験なんだ」


「推薦入学?!」


 大学受験の場合、高校3年次受験では高校の推薦で受験出来る。

 小論文と一教科、面接試験で、12月位に試験はある。

 現役生ではない浪人生の場合は高校推薦は受けられる訳がないから、センター試験と二次試験を通過しなくてはいけない。

 国立大学の場合、文系教育学部では、数学Ⅰを受験しなくても良い場合もある、その時は700点満点の中の成績。

 東京大学理科三類の場合、医学部だけあって、800点満点とした時、720点は取っていないと合格ラインにもならない。

 ただ東大理科一類の場合は、650点/800点でも合格ラインだそうだ。

 チエミ達は獣医の資格を取得する課程。

 爬虫類脳は中脳、間脳。

 ノアの大洪水の時、電離層が低空になり、プラズマ電離層と海面がスレスレになった時、フタバスズキリュウ等の海竜は、その電離層の中、東洋の龍として永遠の命を、電離層の中で得たのだ。

 実際に中国上空の雲と電離層の巣の中、ノアの大洪水時の海竜が生存している!


「龍機魔女には荒魂は不要だ。何故だかわかるか?」


「いや」


「魔術には黒と白がある。私達『DW養成学院』が求めたいのは、白魔術者の方だ。だから、自分を守ってくれる両親の荒魂以外の荒魂は不要なんだ」


「うん」


「だから魂のクリーニングとして、こういう儀式が必要なんだ。人間に後天的に取り付いた荒魂はこうやって取り払って来たのだ。そして、不要な荒魂をこの卵の中に閉じ込めているんだよ。それが、この大王龍の卵が此処にある所以なんだ」


「地獄門?!」


「地球での呼び名、パンドラの卵と言って欲しいな。ようこそ、この卵の中が、魂の教育の場所、もう一つの『DW養成学院』だ!」


 抜け出たチエミ達の荒魂が卵の中に入る。


「この学校の校長は早乙女チエミの父だ。そして教官に、即ち義の教師に遊鬼君。君がなって欲しい」


「俺が?!」


「そして大王竜の意識になって欲しいのだ!」


「遊鬼君!」


「チエミ!」


 お互いの事を呼び合う二人。その声で起きる典子と戯。


「遊鬼君。君にその勇気はあるかね?」


「まず聞きたい。どうして大王竜を復活させようとする?」


「他の星に移住する為だよ。この大王竜は宇宙空間を航行出来るからな」


「そうなのか?!」


「この卵は昔の生き残り。昔はこうしてこの大王竜に乗って宇宙に植民したのだ。大王龍の魂はこうして宿らせていた」


「でも荒魂だけで大丈夫なのか?」


「その為に君達がいる。遊鬼君を始とする『D-7』が集めたファンの和魂で魂の補完をするのだ!」


「!」


「さぁ、君達もこの卵の中に入れ。そして大王龍の一部となれ!」


「そうはさせない! チエミを解放しろ! どうせ選ばれた人間だけを移住させようとする計画なんだろ!」


「それは違う! 皆の意識を運ぶ為だ! 一つの魂に合体させてな!」


 遊鬼は暫し無言でチエミと向き合う。


「そうか……。わかった、協力しよう!」


「皆が大日如来の一部になる為に」


「なら、チエミ達を十字架から降ろせ」


「よし。この三人を推薦合格にする」


「えっ!」


 驚くチエミ達は龍機魔女によって十字架から降ろされた。


「大丈夫か!」


「はい! 有り難う遊鬼君!」


 チエミは、縛られていた手首を摩る。と、その時だ!


「孵化が始まるぞ!」


 地震が起きる。揺れ動く床に立っていられなくなる皆。


「皆、離れろ!」


 退避した皆は卵を上部から見下ろせる部屋に逃げる。


 十字架が倒れ、殻が破れ始めた。皆が息を呑む。とうとう大王竜が誕生するのだ!


「!」


「クンピーッ!」


 何だ?! 飛び出して来たのは体長一m程の幼龍?! 全長数㎞もある卵から?!


「どういう事だ?! 一条さん!」


「こ、これが、クンダリーニ……」


「クンピー!」



第六話 了

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る