第4話 龍蛇神
龍機魔女五人とチエミ、典子、戯、あげは、そしてアウ、一条伊織は音を立てず部屋を出た。彼らは通路を通り、真っすぐに最下層に向かう。十八年も使われていない空港の通路はジメジメして、ビルジがピチッピチッと薄汚い音を嘗め、不気味な余韻で空間を弄んでいた。最下層へのエレベータ-に乗り、地下へと向かう。
皆の心の中に澱んでいる不安と恐怖に対する言語感覚以上の拍動が、脳裏に死を掠める。
死?! 昨日までそんな事象と無縁の生活を送っていたチエミ達。現実感が無いか? CA=スチュワーデス育成ゲーム、その名も『龍機魔女』というゲームで遊んだ事があっても、チエミは、素直にこの状況を認識できはしない。明らかに死の恐怖は足音を立てずに忍び寄ってきてはいる。だが、戯の方は違った。流石元ヤンキーだ。修羅場をくぐり抜けてきただけの事はある。
「一条教官。何の卵なんだ?」
戯が思い切って訊く。その強がりの雰囲気を残した意志に裏打ちされた筋肉の高鳴りが、動悸を速める。
「全宇宙を食らい尽くす最強の
チン。
エレベーターが止まる。扉が開く。その瞬間!
「ギエッ!」
いきなりアンデッド、つまりゾンビが襲いかかってきた。
フシュフシュと声をあげ、両手を差し伸べ、アウの首を絞める!
「離れろ!」
戯がゾンビの胴体を思い切り蹴ると、腕だけ残して吹っ飛んだ。
「悪い」
「なんて事ねぇよ」
四方陣アウ。母は四方陣ツクシ。一等魔女の息子。男でありながらスチュワーデスを目指す少年だ。ウツクシはチエミの母早乙女アスカのライバルのスチュワーデスだった。
サスガはDALのCA。ツクシはARAのCAだ。
通路はゾンビで埋め尽くされていた。五人の龍機魔女は歴戦の兵だ。あっという間にそいつらを蹴散らす。腐臭にむせ返りながら、皆は先を進む。
そこで一条伊織は立ち止まる。マッピングの呪文を唱える。
「チューマッパー!」
その瞬間伊織の手の中から無数の鼠が出現し、走って行く。その鼠達は地下迷宮の色々な所に行き、そして戻ってマッピングするのだ。
「よし! 卵の在りかはわかった!」
伊織を先頭にその場に向かう。
「その卵を見つけてどうするんです?」
「……」
チエミの質問に伊織は押し黙る。
「復活させる」
「えっ! 何の為に!」
「後戻りは出来ない。クンダリーニ。大王龍は宇宙空間でも航行出来るからだ」
伊織は歩きながら話す。
「私は以前此処で龍機のコパイとして働いていた。この島で発見された大王龍の卵を守る為にな」
「そうなんですか」
「四方陣アウの母も、早乙女。お前の母も此処で龍機魔女として戦争に参加していたんだ」
「お母さんが! でも何故戦後この卵が放っておかれたんですか? そんなに大事な卵が」
「誰も手出しが出来なかったんだ。全長数㎞もある巨大な卵をどうやって運べと言うのだ。この十数㎞四方のロゴロゴ島は龍の結界で守られていたしな」
「その為にわざとハイジャックさせてこの島に不時着したんですね?」
「そうだ。」
そうこうしている内に巨大な鉄の扉の前にやって来た。
「いいか。入るぞ」
「はい」
チエミは息を呑む。
伊織は暗号キーに数字を打ち込む。そして鉄の扉がギシギシと開く。皆は中に入る。皆の心の中の重りは感覚の海に沈み込む。畏怖。その感情に支配された瞳孔が開く。何も見たくない。いや、見たい。ドロドロした不安の出所が口に出して、荒くなる呼吸の間隔を絶対時間に同調させない。皆が目の前の光景を不気味に変容させていた。
卵の上部に生えた十字架に掲げられた骸。蛇が絡まった骸骨に皆の視線が集まる。
その骸がこの大王龍のドラグマンだった。
「早乙女。此処に来い」
「教官。私ですか?!」
「お前を何故此処に来させた訳がわかるか?」
「い、いえ?」
「あの骸骨が誰だかわかるか?」
「わかりません」
「あの骸がお前の父、
「ッ! な、何をするんです!!!」
龍機魔女がチエミの体を拘束する。
「お前に有魔様の跡を継いで貰いたい」
「!」
そして、典子と戯も拘束される。
「何しやがるんでぇい!」
と、戯が吠えると三人共手刀を首に入れられ気絶する。
三本の十字架。チエミ、典子、戯の三人は卵の上部に立てられたそれに縛り付けられる。
「アウ。お前はこの大王龍、『クンダリーニ』の一等魔神になる覚悟はあるな」
「勿論だ」
「剣城あげは。君はどうだ」
「私は……」
「『DW養成学院』の創設者、剣城家の跡取り娘が君だ。計画は全部知っているな」
「はい……」
「後は『D-7』の遊鬼達が此処に来るのを待つだけだ」
毎年行方不明になる学生……。その今年の犠牲者になったのがチエミと典子、戯だった……。
第五話 了
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