第3話 剣城あげは


 金河系の中心部、ザイウール恒星系第二惑星ティーゼ。ガイラ大陸東方の小国家ライマール。舞台は此処である。


 この星の五つの大陸の空路は、背中に乗客が乗るキャビンが備えられた『龍機』と呼ばれる旅客ドラゴンによって結ばれていた。


 龍機とは旅客ドラゴンの事である。そしてその龍機に搭乗するスチュワーデスは、龍機魔女と呼ばれていた。


 龍機魔女。ドラゴンウィッチ。今だに跳梁跋扈する魔物達が襲ってくる空において、魔法によってその物の怪を倒す存在だ。


 その時、機内に非常警報が鳴る。龍機魔女の卵達が騒ぎだす。


『龍機魔女! 各砲座に着け!』


 ワイバーンの襲来だった。


「大丈夫かなぁ!」


 人一倍臆病な典子がチエミに語りかける。そして友達になった戯の方はというと、


「怖いよ! 怖いよ! 高いの怖いよ!」


 戯はどうやら龍機魔女になりたいくせに高所恐怖症のようだ。


 敵のワイバーンは十匹。砲座についた龍機魔女は、椅子の両脇にある半球体に手を置き、己の精神エネルギーを注入する。そして大砲から火炎弾を撃ち放つ。


「ギェッ!」


 流石歴戦の龍機魔女。見事に全弾命中したが、ワイバーンは退散しない。


 その光景を前部カメラの映像を見ていた龍機魔女予備軍はおろおろとうろたえるばかり。そして、次に起こった出来事で更に緊張は高まった。


「ヒッ!」


「動くな!」


 どうした?! 何が起こった?!


 この隙に、一人の少女が騒ぎを置こす!


「ハ、ハイジャック?!」


「チエミちゃん~! 助けてぇ!!!」


「騒ぐな!」


 男の声? ハイジャック犯の少女は、典子の首元に手刀を当てた。そしてその犯人は鬘を取る。少女の振りをしていたのは、美少年だった。


「機長! ハイジャックです!」


 龍機魔女の一人がインターカムで話をする。機長は沈着冷静に管制塔に連絡する。


 説得チームが組織されたのは僅か十数分後だった。


「チエミちゃん~! 助けてぇ!」


「典子ちゃん!」


「黙ってろ!」


 そこに教官の一条伊織が椅子から立ち上がる。 


「お前の要求は何だ!」


「俺は男だ! 男でもCAになれるよう法律の改正を要求する!」


 それが、その美少年の要求だった。


「そんな要求が今すぐ通ると思うか?!」


「だったら俺がこの学院に合格できるようにしろ!」


「わかった。まず落ち着け。学院長に話をするから」


 伊織は衛星携帯電話を使って学院長にホットラインを繋いだ。そして、事の成り行きを報告する。


「わかりました・・・・・・。よく聞け。お前が試験を受けられようにはするという事だ」


「何! ホントか!」


「ああ!」


 と、その時だ。戦闘中のワイバーンの吐く火球がコックピットを直撃した!


 そして非常警報が鳴り響く。 


「乗客の皆様! 緊急事態です。当機は不時着致します! シートベルトをして、龍機魔女に従って下さい!」


 海に囲まれたこの島国。眼下には海が広がっている。そして前方には、旧大戦で使われた飛行場がある絶界の孤島が見えてきた。


 ハイジャックされたこの龍機は、その飛行場に着陸態勢に入る。


 龍機魔女の活躍で、ワイバーンは撃退する事が出来た。後の問題はハイジャック犯の処遇だ。


 もうこの島には誰も住んでいない。


「お前、名前は?」と、伊織が名を訊く。


「俺は、四方陣よもじんアウ」


「何? じゃぁ、一等魔女四方陣よもじんツクシの!」


「そうだ!」


「もういいだろ。試験は受けてもいいっていうお許しが出たんだから」


「・・・・・・わかった。解放する」


「よし」


 アウは典子を解放した。泣きじゃくる典子はチエミの胸に飛び込む。下界に降りた事で、戯も正気を取り戻した。そして龍機魔女の一人が伊織に話かける。


「伊織様。空港には連絡しました。ですが救出チームは明日出動だそうです」


「そうか。あのワイバーンの軍隊がまだ空を行き交っているからな」


 伊織の先導で皆が龍機から降りる。そして飛行場の中に入った。まだ夕闇には早い。


 皆は空港内部で救出チームが到着するのを待つ。


 旧大戦で使用されたこの飛行場周囲には巨大な龍機の骨がゴロゴロ転がっている。


 ロゴロゴ島は激戦地の一つだった。


 旧大戦。大王竜の卵をめぐっての世界大戦。世界が、大王竜の卵を守る側と殺そうとする側とに分離しての戦争だった。


 このロゴロゴ島で発見されたその卵はこの空港の地下要塞に封印されていた。その卵を守るようにこの島には野龍が多く生息していた。


 大王龍。クンダリーニとも言う。宇宙を食い尽くす龍。その卵がこの空港の地下にまだ眠っているという情報があった。


 運び込まれた食材で夕食を作り、チエミ達は少し早く腹拵えをした。龍機もドラグマンの姿に戻っている。ソーラー発電がまだ生きているらしく、電気も点く。


 この飛行場の内部は安心だが、百人程のB組の少女達は、恐れながら眠りにつく。 


(お母さん。私どうなっちゃうんだろう……。遊鬼君、助けて)


 と、その時だ。眠りにつけないチエミを起こす人間がいる。


「早乙女、起きろ」


「……はい? 一条教官。どうしたんです?」


「お前の力が借りたい。私達と共に今から地下要塞に向かい、ある特殊任務に就いて貰いたい」


「私が? どういう任務なんですか」


「卵を探す」


「エッ! 卵?」


「そうだ。此処は飛行禁止空域だった。だがこの非常事態で着陸したのは予定通りなのだ」


「じゃぁ、ハイジャックも!」


「そうだ。みんなヤラセだ」


「そんな!」


「お前以外にも何人か連れて行く。人選は任せる」


「でも、どうして私達を?」


「ある理由がある。だが、時間がない。早く選べ」


 伊織に言われて、チエミは典子と戯を選ぶ。


「私も行きますわ」


 そう言ったのは剣城あげはだった。


「よし。じゃぁ、行くぞ」



第四話 了

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