第24話:めちゃくちゃ可愛いすみれ

 白澤しらさわさんとすみれへのインタビューが終わり、サイト掲載用写真の撮影が始まった。

 二人並んで写真に収まる姿は、まるでアイドルグループのようだ。


 白澤さんは黒髪で、大人っぽい顔つきの清楚な美人。

 確かに彼女は女優になれそうなくらい美しい。


 だけどナチュラルなメイクのすみれは──それをも上回るくらい超絶可愛い美少女。


 今のすみれはカメラマンの指示に従って、ちゃんと笑顔を見せている。

 普段のめんどくさそうな顔が嘘のように、キラキラとした笑顔。

 風にふわふわとたなびく栗色の髪。


 アイツ……こんな顔ができるんだ。

 笑うとやはり魅力が何倍も増す。


綿貫わたぬき先輩……」


 そして大きな胸が膨らむブレザーと、ポーズを変えるたびに巻くように揺れるチェック柄スカートの制服姿。まるで妖精を見ているかのような錯覚。


綿貫わたぬき先輩……」


 いや……これはちょっとヤバい。

 めちゃくちゃ可愛いじゃないか。


「ちょっと、綿貫わたぬき先輩!」

「え? あっ、ああ。なんだよ青井」

「もうっ、さっきから何度も呼んでるのにっ」

「あ、そうか。すまん。どうした?」

「あの子たち、二人とも可愛いですね……って言おうとしたんですけど。やっぱやめときます」

「なんで?」

「だって先輩がボーっと見とれててヤバいんだもん。前も言ったけど、高校生に手を出したらダメですよぉ」

「出してないって」

「ってことは、これから出すんですか?」


 青井の言葉に、一瞬ギクリとした。

 今までならギクリとするなんてことはなかったのに、目の前のすみれがあまりに魅力的に見えたからかもしれない。


「アホか」


 そう。そんなのはアホらしいことだ。

 すみれは6個も下のガキだ。

 好きになんかなっちゃいけないし、すみれが俺を好きになることも考えられない。


「そうですよ先輩。彼女と別れたばっかで、寂しいからついつい色んな女の子に目が行っちゃうんですよ。早く新しい彼女作った方がいいっすよ。も・ち・ろ・ん、大人の彼女を!」

「わかったから。わかってるから。そんなにぐいぐい顔を近づけるな!」


 青井はぷんぷん怒ったような顔を、ずいと近づけてきた。

 こいつは真面目だから、ホントに俺が女子高生に惚れてしまうとマズいって心配してるに違いない。

 だからこんなふうに注意をするんだろうな。


「そんな簡単に新しい彼女なんて、できるわけないだろ」

「そうですかねぇ。できると思いますけど」

「なんでだよ?」

「言ったじゃないですか。綿貫先輩はかげで案外モテてるって」


 確かにこの前、初めて入間湯いるまゆ高校で白澤さんとすみれに会った時、青井はそんな言葉で俺を彼女たちに紹介した。


「あんなの、掴みのネタだって言ってたろ」

「掴みのネタですけど、内容はホントのことですよ」

「ホントだって言うなら誰だよ? 教えてくれ」

「えっとぉ……あっ、そうだ。教えてほしかったら晩ご飯奢ってください。また飲みに行きましょうよ。そこで教えます」

「はぁ? なんでだよ? じゃあいいよ。教えてもらわなくて結構」

「ええーっ? 先輩のケチぃっ! そんなケチだと女の子にモテませんよ」

「さっき陰でモテてるって言ったのはなんなんだよ?」

「あっ、しっつれいしました。先輩モテます! だからほらっ、言っちゃいましょう。『青井、奢ってやるから飲みに行こーぜ!』って。さん、はいっ!」


 どうしたんだ青井のヤツ。

 いつになくグイグイ来るな。

 何か嫌なことでもあって、飲みに行きたいのか?


「なにが、さん、はいっ、だ。言わね」

「ええーっ?」

「そんな拗ねた顔してもダメだ。言わない」


 俺が断言するとようやく青井は諦めたようで、ぷいと横を向いてなにやらブツブツとつぶやいた。


「んもうっ……作戦失敗……」


 なんだよ作戦失敗って。

 俺と青井ならそんなに給料も変わらないのに、策を弄してまで奢らせたいのかよ。


 俺と青井がそんなバカ話をしてるうちに、気がついたら撮影が終わっていた。

 青井が女子高生二人に労いの言葉をかける。


「二人ともお疲れさまでしたぁ~! ありがとうね! サイトができあがるのを楽しみにしててね」

「はいっ! こちらこそありがとうございました!」


 白澤さんがはきはきと答えた。

 すみれも普通に「ありがとうございました」と答えた。

 だけどさっきまでの笑顔はどこへやら。

 なんだかちょっと不機嫌な顔をしている。

 写真撮影という『仕事』が終わって、素に戻ったのか?


 そう思いながら、何げなく彼女をチラチラと見ていたら、ふと目が合った。

 なぜかすみれは一瞬ジト目で俺を睨んだ。


 ──どうしたんだ?


 しかし俺とすみれに関りがあることを知られてはいけないし、すぐにお互いに目をそらせて、知らんふりをする。

 白澤さんとすみれが帰って行くのを見届けて、カメラマンさんが声をかけてきた。


「綿貫さん、青井さん、お疲れ様っす。じゃあ写真データはまたお二人のメールに送っときますね」

「あ、はい。お願いします。お疲れさまでした」


 挨拶を交わして、俺と青井も駐車場に向かった。

 俺はオフィスに帰るだけだが、青井はこの後も別の仕事がある。

 だから車で別々の方向に向かって走り出した。


***


 俺は駅の方につながる道を、社用車を走らせていた。

 歩道には入間湯いるまゆ高校の生徒は、もうほとんど歩いていない。

 しかし前方に、制服を着た女子生徒が一人いるのが目に入った。


 あれは──すみれだ。

 白澤さんはいないようだが、誰か男子生徒と一緒に居る。

 すみれも男子も何やら厳しい顔をして、お互いに口論しているように見えた。

 男子は運動部系なのか、かなりいいガタイをしている。


 どうしたんだろう?

 そう思っていると、男子生徒が突然すみれの手首をつかんで、引っ張り始めた。

 歩道沿いにある公園に、すみれが引きずられるように連れて行かれた。


 ちょっとヤバいんじゃないか。

 俺はコインパーキングに車を停めて、急いで彼らの後を追って公園に向かった。

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