第14話:青井も成長したもんだ
**
「
翌日の午後。
デスクで机に向かっていたら
目の前には自信満々なドヤ顔をした青井が立っている。
「お? 早いな」
昨日『ぬる高』でのヒアリング調査を踏まえた提案だ。
青井め、仕事が早い。熱意が溢れている。
自分の母校を応援する仕事だから、なおさら力が入っているのかもしれない。
青井の作った提案書に目を通す。
うん、なかなかいい所に目を付けてる。
「いいと思う。生徒にヒアリングした内容もよくまとめてるし、どこに注目するかもいいポイントをついてるよ」
「やったぁ! ありがとうございます!」
青井は可愛くガッツポーズして、満面の笑みを見せた。ショートカットがゆらゆら揺れる。
「この線でもうちょい掘り下げていこう」
「はい。いい意見を出してくれた生徒さんには、追加のヒアリングをさせてもらうよう、教頭先生にお願いしときますね」
「うん、そうだな」
「特に
確かに白澤さんは積極的に、役に立つ意見を言ってくれていた。
「え? 春待って子は、白澤さんの影に隠れてあんまり喋ってなかったよな」
「でも時折ボソボソっと話す意見が、なかなか的を射てましたね。あの子きっと頭がいいんだと思います」
「そっか」
なるほど。すみれに対する評価も高いな。
なんかちょっと嬉しく思う。
──あ、いや。アイツがどんな評価だろうと俺には関係ない。
それにしてもこの分析力やまとめる力。青井も成長したもんだ。
元々入社してきた時から、体育会系らしくガッツはあった。だけど新人の頃はポカをやらかすことも多くて、フォローするのに手間がかかったものだ。
それが一年経って、しっかりとした提案書を作れるようになるなんて。青井の前向きさとガッツの賜物だな。
俺も高校まで柔道をやってたし、体育会系のノリは嫌いではない。
先輩としては感無量でござるぞ。
「どうしたんですか綿貫先輩。ニヤニヤしてますよ」
「いやあ。青井も成長したなぁって感激してるんだよ」
「それもこれも綿貫先輩のおかげですよ」
「そっか?」
嬉しいことを言ってくれる。
いやホント、青井はいい後輩だよなぁ。
「はい。だから美味しいものでも奢ってください!」
「は? それ逆じゃね? お前に奢ってくれとまでは言わないけど、奢るのはちゃんと成果を挙げてからだ」
「ええーっ!? 綿貫先輩のケチっ!」
「ケチじゃないだろっ」
なんか俺、昨日も『ケチ』って言われた気がする。俺ってケチなのか?
違うよな?
言ってるヤツらがワガママなだけだよな?
「仕方ないです。じゃあ百歩譲って、成果が出たら奢ってもらいます」
「百歩譲ってそれかよ。譲るんなら、『奢ってもらわなくて結構です』って言え」
「いいえ。奢っては貰いますから」
青井はニヤと笑ってる。
「わかったよ」
はあっ……
成長したはいいけど、コイツもかわいげがなくなってきたよな。とほほ。
でもまあ、なんやかんや言いながら、明るくて仕事のパートナーとしてはいいヤツだ。
俺は改めてそう思った。
***
その日の夜もコンビニ弁当を買って帰宅した。
レンジで弁当を温めて、さあ食おうかと思った時に玄関のチャイムが鳴る。時計を見ると六時半。
この部屋に来ることを昨日認めたし、きっとすみれだな。アイツ、ホントに俺が帰ってきたタイミング良く来るよなぁ。
玄関まで行ってドアのスコープを覗いた。
「なんだコレ?」
目の前に見えたのは、四角いカードのようなもの。『春待すみれ殿 入室許可証』と印字されてる。
ん? 『有効期限:永遠』……?
またワケのわからんことをしおって。
俺は呆れ返りながら鍵を開けた。
ドアを開けた瞬間、隙間から身体を滑り込ませるようにしてすみれが入ってくる。
「まいど」
「まいどじゃねぇよ。なんだお前は。関西商人かよ?」
まあ確かに、毎度毎度お騒がせに来るけど。
靴を脱いだすみれは、勝手に廊下をずんずん歩いて室内に入っていく。
「あ、こら。ちょい待て」
「ここに来るのを心待ちにしてたんだから待てない」
「なんだよ。そんなに俺に会いたかったのか?」
もちろん冗談で言った。しかしその言葉ですみれはピタリ立ち止まった。そして振り返る。
今日も、ちょっと近所まで出かけました的な服装。Tシャツに黒いフレアのミニスカート。
いや、今までと同じようだけど、なんとなくTシャツがこれまでよりもお洒落だな。英字のロゴとクールなイラスト入りだ。
今までよりちょっとだけよそ行きな感じ?
ん~、よくわからんけど。
でも相変わらず胸はデカいし、脚は長くて綺麗だ。そんなとこを強調するようなカッコで、一人暮らしの男の部屋に来るなよ。
あ、いやいや。ガキ相手にそんなことを考えちゃいかんぞ俺。
「は? 違うって昨日はっきりと言ったでしょ? キモっ!」
「あ、いや……キモって言うな。冗談だよ!」
「冗談でもそんなこ言わないでよ。絶対に違うんだから」
絶対に違うとか、そんなことは改めて念押ししなくてもわかってるさ。そんなに嫌そうな顔しなくてもいいのに、とも思うけれども。
まあどうせコイツはくそガキだ。気にしないでおこう。
「そんなことより早く『あつみん』やりたい。ずっと我慢してたんだから」
ああ、やっぱり『あつみん』をやりたくて、ここに来るのを心待ちにしてたわけだね。
「知るかよ。それよりも、さっきの許可証ってなんだ?」
「許可証ってのはね春馬さん。許可を得たことを証明するためのもの」
「そんなのわかっとるわ! なんのためにそんな物を作ったのか聞いてんだよ」
「面白いでしょ? 部屋に入れてもらうお礼に、春馬さんを楽しませてあげようと思って」
「は? お前、俺の部屋に来る度に、毎回なんやかんやと変なことするけどな。俺は全然楽しんでないぞ」
やることがガキの遊びかよ。
いやまさか、そんなもので俺が喜ぶって本気で思われてるのか?
「わざわざそんなもん作ってる暇があったら勉強しろよ。高校生なんだから」
「いいよ。勉強なんかしても意味ない」
「は? 学生の本分は勉強だぞ」
「ふぅーん。春馬さんは学生時代勉強ばっかしてたんだ。偉いね」
ちょっとトゲのある言葉に、ちょっとタジっとなった。
正直言って俺は、まったく勉強なんかしなかった。だからこその三流大出だ。だけど大反省してるかって言うと……あんまりしてないな。
いかんな。自分がしてなかったくせに、大人になった途端、偉そうにそんなこと言うなんて。
「すまん。俺は全然勉強してこなかった」
「え?」
すみれはきょとんとした。そして口に手を当て、プッと吹き出す。
「春馬さんって素直だね」
「うっせえ。嘘はつきたくないだけだよ」
「いや、いいよいいよ。可愛いよ」
「は? 可愛いだと?」
6コも歳下の女にバカにされた。
ショックだ……
「じゃああたしは『あつみん』するから。春馬さんは晩ご飯ゆっくり食べて」
丸テーブルに置いたままのコンビニ弁当に目をやりながらそう言って、すみれはゲーム機にソフトのカートリッジを差し込んだ。
まあいいか。とにかく飯を食おう。
テレビの前に座り込むすみれを横目に、俺も座って弁当を食べ始めた。
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