第10話:初めて見るすみれの制服姿
なんたる偶然。すみれが通う学校って青井の母校だったのか。
ドキリと心臓が跳ねる。
「は……」
俺に気づいたすみれが一瞬口を開いたのと同時に、俺も思わず声を漏らした。
「す……」
ヤバっ!
お互いに名前を口にしかけた。だがすぐにマズいと気づいてごまかす。
「は、はじめまして」
すみれの挨拶に、俺も言葉を返した。
「す、すみませんね、取材に協力してもらって」
はぁ……なんとかごまかせた。
しかしすみれと一緒にいた女の子が、挙動不審なすみれを見て不思議そうな顔をしている。青井も俺を見てきょとんとしている。
そりゃそうだな。今の俺とすみれの態度は、ぎごちなさ満点だ。
でも俺とすみれの接点を他の人に知られない方がいい。
俺は青井に変に思われるだろうし、すみれも知らない男の部屋に上がり込んだなんて友達に知られない方がいいだろう。
事実、すみれは俺を見ても素知らぬふりで俺を見ている。
それにしても──コイツ、本物の女子高生だったんだ。真偽は半々くらいと思ってた。
初めて見るすみれの制服姿。
少し着崩してて、ブラウスの胸元からバストの谷間が見えかけてるぞ。もうちょいちゃんとしろよな。
いつも通りメイクが濃い目なのはあまり俺の好みではないけれど、でも『ぬる高』の制服の可愛さもあって、元々美形のすみれがさらに可愛く見える。
──あ、いかん。
こんなくそガキを可愛いと思ってしまうなんて、俺としたことが。
「なあ青井。インタビューはこれから?」
「あ、はい。この子たちに、今声をかけたとこです」
「そっか。じゃあ続けて」
「はい!」
青井は爽やかに返事をして、すみれ達に向き直った。
「私、ウエブアド株式会社の青井加奈と言います。この学校の卒業生なんです!」
青井が名乗った瞬間、すみれはちょっと目を見開いた。そしてチラと横目で一瞬だけ俺を見る。
あ、そっか。青井から電話があったとき、すみれは発信者の名前を見ている。それでピンときたのかもしれない。
青井加奈が俺と同じ会社だってことは、すみれには既に知られている。つまり今ので、俺の勤務先の名前がすみれにバレてしまったってことだ。
別にやましいことは何もしてないからいいけど……
「そしてこちらは頼れる先輩の
突然青井は俺に手のひらを向けて紹介した。二人の女子高生の目が、一斉に俺を向く。すみれも何食わぬ顔をしている。
「は? どういう紹介だよ? 俺がモテるなんて聞いたことがない。いい加減な紹介はやめてくれ」
「え? 綿貫先輩、陰で案外モテてますよー」
「なんだよ陰でモテるって。そんな話は聞いたことない」
「隠れ綿貫ファンがいるんですよぉ」
「なんで隠れてるんだよ? それならそうと言ってくれたら喜ぶのに」
「だって綿貫先輩。つい最近まで彼女がいらっしゃったじゃないですか。だからファンの人達は隠れてるんですよ」
「いや、ちょっと待て青井。この場で、なんでいきなりそんな話をしだすんだ? 個人情報漏洩も甚だしい!」
「この子達にリラックスしてもらおうと思いましてね。おかげで掴みはオッケー!」
「なんだ、冗談かよ!」
俺と青井のやり取りを見て、黒髪の女子が楽しそうにハハハと笑ってる。
すみれはクックックと噛み殺したような笑い。コイツ、絶対に俺をバカにしてるよな。
「あ、でもキミ達。このお兄さんが陰でモテるってのはホントだからね。はい先輩、自己紹介してください!」
そんな紹介はやめてくれ。恥ずかしすぎる。だがそこは俺も大人だ。平静を装って挨拶する。
「ああ、コホン。綿貫です。よろしく」
女子高生二人が笑いながら俺に会釈するのを見届けて、青井は説明を始めた。
「さて本題です。今日お二人にお声掛けしたのは……」
今回の主旨を説明した後、青井はこの高校の良い所を彼女達に質問した。
黒髪の女の子はにこやかに答えてくれている。しかしすみれは、いつもどおりめんど臭そうな顔で、ポツリポツリと意見を言うのみ。友達がほとんど答えてる。
コイツ、俺以外が相手でもこんな感じなんだ。いや、俺に対してはからかったり馬鹿にしてくるからもっと酷い態度だったのを忘れてた、あはは。
やっぱ俺、すみれに舐められてるとしか思えん。
それに比べて友達の方はにこやかだし清楚な美人だ。
うんうん、この子は好感度が高いぞよ。
女子高生はこうあるべしという見本のような子だ。すみれと大違い。
そんな風に思いながら黒髪の子を眺めていたら、ふとこちらを向いたすみれと目が合った。
なんかすっごいジト目で睨まれてる気がする。
確かに俺、ちょっとニヤついてたかも。このエロおやじって言うすみれの心の声が聞こえてきた。
ヤバい。
俺は何気ないふりをして、黒髪の子から目をそらした。
***
「はい、これで質問はひと通り終わりです。二人ともご協力ありがとー」
青井がヒアリングを終えた。
「すごく参考になることを聞けたよ。もしよかったら、また話を聞かせてもらえるかな?」
「はい」
青井の問いかけに、黒髪の子がニコリとうなずく。
俺はすみれと何か変なやり取りが生まれるのが嫌だったし、目線が合うのも避けるために二、三歩下がったところで彼女たちのやり取りを眺めていた。
だからぼそぼそとしか話さないすみれが、どんなことを答えたのかイマイチよくわからない。
それに比べて黒髪の子はハキハキと答えてくれてたから、確かに参考になる意見を言っていたことはわかった。
「じゃあさ。その時は先生を通じてお願いするから、クラスと名前を教えてくれる?」
「はい。三年二組の
なるほど。清楚美人に相応しい名前だ。
「三年の白澤さんね。キミは?」
「えっと……」
青井に目を向けられて、すみれは口ごもった。チラリと横目で俺を見る。
嫌なら答えなくていいから。
──って言うか答えるな。
お前が答えたら、追加のヒアリングをする時に、また顔を合わさざるを得なくなる。
「春を待つと書いて
あちゃ、答えちゃったか。
そういやコイツは、見た目に反して律儀なヤツなんだった。
「へぇ! 春を待つすみれかぁ。とってもいい名前だね」
「あ、ありがと」
すみれはほんの少し照れたような顔になって、鼻の頭を指でポリポリと掻く。コイツが照れた時によく見せる仕草。
きっとこの名前を気に入ってるんだろうな。確かにいい名前だと俺も思う。
コイツも名前だけは清楚な雰囲気だ。名前負けしてるぞすみれ。
「じゃあまたね。今日はありがとっ!」
青井が両手をブンブン振ってバイバイをすると、由美香ちゃんも大きく手を振ってくれた。すみれは小さく振っている。
やっぱり由美香ちゃんはいい子だ。
「なかなか収穫がありましたね先輩!」
「あ、うん。そうだな。会社に戻って、内容を分析しよう。そして何をこの学校の売りにするか検討しよう」
「はい、わっかりました!」
青井は相変わらずの天真爛漫さで、なぜか俺に向かって敬礼をした。
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