第9話:春晴れで、今日も空は、青いかな!
***
翌日、月曜日の午後。
後輩の
「いやぁ、いい天気ですね
「そうだな」
「
「え?」
「あはは。プロジェクトの成功を祈念して、一句
「なんだよそれ、俳句か? 春晴れなんてねぇし」
相変わらず天真爛漫だな。『青いかな!』っていうのは自分の名前に掛けてるらしい。
「まあとにかくがんばりましょう!」
青井はショートヘアを揺らして、ケラケラと笑った。
青井はいかにも元体育会系って感じで、ショートヘアにキリッとしたビジネススーツ姿がトレードマークの明るい女子。仕事のパートナーが明るいってのはいいもんだ。
これから向かう先は、都内にある
青井によると中堅の私立高で、スポーツも勉強も文化部も普通レベル。これといって特色がないらしい。その分まったりとした校風で、おっとりとした生徒が多い。
本来の通称は『いる高』なのだが、在籍生徒達はそんな校風から『ぬるま湯高校=ぬる高』と呼んでいるらしい。
「ウチの高校、ほんとにぬるい感じで。ぜんぜん売りになるモノがないんですよねぇ……あえて言ったら、女子の制服が可愛いことくらいかな」
「女子の制服が可愛いのは充分売りになるぞ」
「ですね」
うん、俺も楽しみだ。
その『ぬる高』の教頭先生が、OGである青井に声をかけてくれた。なんでも在学中にすごくお世話になった陸上部の顧問で、青井の卒業後出世して教頭になったらしい。
俺と青井が勤めるWEBアド株式会社は、ホームページ制作をメインとした広告代理店。そこの営業部に所属する俺は、広告の受注活動からコンサルティングまでおこなっている。
青井からその話を聞いた俺はこう言った。
「こういう特色のない企業や学校をアピールするには、単にデザインをカッコよくリニューアルしても効果は薄いぞ」
「じゃあどうすればいいんですか?」
「お前の母校の『売り』、つまりこの学校の何が生徒を惹きつけるのかを見つけ出して、それを魅力ある伝え方をする必要がある」
「なるほど。さすが綿貫先輩!」
感心した青井がそのことを教頭先生に伝えたら教頭もすごく興味を持ってくれた。その結果単なるサイト制作ではなく、総合的な広告として請け負わせてもらえることになった。
そして今日がその初打ち合わせで、俺は初めて教頭先生に会いに行く。
なかなか面白い仕事をさせてもらえそうだ。
俺はワクワクしながら、青井と一緒に『ぬる高』を訪れた。
高校の校舎なんてものに足を踏み入れるのはホント久しぶりだ。大学とはまた雰囲気が全然違うからな。
自分の出身校でもないのに、校内を歩くとやけに懐かしい気分になる。
そして俺と青井は教頭室の中に通された。
***
「綿貫さん。わが校の魅力を見つけ出すというあなたのご提案、気に入りました。正式にご依頼しますので、ぜひともよろしくお願いします」
ひと通りの説明を終えたところで、教頭先生はそう言ってくれた。
運動部の元顧問だけあって、さばさばした性格の女性だ。即断即決してくれた。
「加奈ちゃんもありがとう。よろしくお願いしますね」
「はい先生。力いーっぱいがんばります!」
「加奈ちゃんは相変わらず元気ね」
「はい! それだけが取り柄ですから!」
青井は謙遜してるが、頭もいいし美人だし、取り柄はいっぱいある。
「ところで先生。事前に言ってあったように、今日はこのまま在校生にヒアリング調査をしてもいいですか?」
「うん、いいわよ。取材許可証の名札を作っておいたから、これを首からかけて生徒に声をかけてくれる?」
「ありがとうございます!」
この学校の良いところを見つけ出すために、在校生に直接ヒアリング調査をするというアイデアを俺が出した。その上で広告戦略を練って、後日またここに提案に訪問することになった。
俺と青井は教頭に丁寧に礼を述べてから教頭室を後にした。
ちょうど一日の授業が終わったのか、来る時には見かけなかった生徒たちが、大勢廊下を行き交っている。青井が言うように、確かに女子の制服が可愛い。
襟や袖に赤い縁取りのあるブレザーは、腰のところでキュッと絞ってあってスタイルが良く見える。
チェック柄のスカートはややフレアな感じで、キュートに見える。
胸元のリボンはふわりと広がる感じで、可憐さが増す。
なるほど。これはイチ押しできる要素だな。
制服の可愛さのおかげで、女の子達の可愛さが何倍にも増して見える。
校舎から出た俺と青井は、それぞれ二手に分かれて校内で生徒ヒアリングをすることにした。
俺は男子生徒、青井は女子生徒を相手に声をかけてヒアリングする。
何組かの生徒から話を聞いているうちに、気がつけばもう一時間が経っていた。
割と気のいい生徒が多くて、スムーズに話を訊くことができた。
青井はどうだろうか?
そう思って周りを見回すと、校舎と校舎の間の渡り廊下のところに青井がいるのを見つけた。目の前にいた女生徒に声をかけている。
女生徒は横顔が見えていて、艶々とした黒髪の子が一人と、その向こうにもう一人いる。
俺が近づくと、ふと俺に気づいた青井が声をかけてきた。
「あ、先輩! お疲れ様です!」
青井の声に釣られて振り返った黒髪の子は、大人っぽい顔つきの清楚な美人だった。
そしてその子の陰に隠れていた女の子もこちらを見た。
やや赤っぽい茶髪に整った顔。いつもと同じようなメイク。
少しブラウスの胸元を開けて着崩した制服。
なんと──
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