セオの私と読者と仲間たち
加藤ゆたか
私と読者と仲間たち
私は冒険小説家のセオ!
今日の冒険はなんと火星です。火星には今も誰も辿り着いたことのないジャングルがあって、その奥地には古代宇宙人の秘宝が眠っていると言われています。
こっちは私の相棒の犬のタロです。タロは私がピンチになるといつもどこからともなく駆けつけてきて助けてくれる頼りになるやつです。
「タロ、そろそろ火星に着くかな?」
「わん! わん!」
タロは喋れないけど、なんとなくタロの言ってることはわかる私です。今は宇宙船の中にいて、タロには計器を任せているのでもうすぐ着くと言っていると思います。
「あと一時間くらいかかるよ。ゆっくりしてていいからね、セオちゃん。」
「あ、はい。おばあちゃん。」
おばあちゃんは私の冒険仲間です。おばあちゃんは私のおばあちゃんですが不老不死なので見た目は若いです。おばあちゃんの持っている本にはなんかすごいことが書いてあって、私のおばあちゃんは何でもわかっちゃうすごいおばあちゃんなんです。
「あ、ここでロッカーからアイテムを取ってきた方がいいって書いてあるわ。ちょっと行ってくるね。」
「うん。私はここで待っていればいい?」
「そうね。次のイベントはここで起こるみたいだから、セオちゃんはここにいるといいわ。」
「わかったよ。」
ドッカーン!
わあ! 急に宇宙船が大きく揺れて、私たちは壁に叩きつけられました! いや、それだと痛いかな? ちょっとバランスを崩して倒れたことに変更します。
「おばあちゃん! タロ! 大丈夫!? 怪我はない!?」
幸いタロもおばあちゃんも怪我は無いようです。おばあちゃんはそのままロッカールームの方へ行ってしまいました。
「いったい今の揺れはなんだったんだろう?」
私が宇宙船の計器を確認していると、急にドアが開いて男女の二人組が部屋に入ってきました。
「へいへいへい、セオちゃん、火星行くんだって? 私も連れてってよ。」
「修理屋のお姉さん! とジョン!」
部屋に入ってきたのは修理屋のお姉さんとジョンでした。お姉さんは冒険者装備をバッチリ決めていました。ジョンはお姉さんの隣で何も言わずに頷いています。
「ちょっと勢い余って宇宙船にぶつけちゃったよ。後で直しておくからゴメンね。」
「ありがとうございます。お姉さんも仲間になってくれれば心強いです!」
こうして私の仲間は、タロとおばあちゃんと修理屋のお姉さんとジョンに増えました。
さあ、今から火星です!
火星に着くと鬱蒼としたジャングルが既に目の前に広がっていました。実は私は火星には行ったことないんです。人間は普通にしていられるのかな? でも大丈夫かな? みんな人間は不老不死だし、私とジョンはロボットだし、タロだけ心配だから宇宙船にお留守番をしてもらうことにしました。
そうです。私ロボットなんです。ロボットだけど今日は冒険に出ているんです。
「セオちゃん、こっちだよー!」
あ! おばあちゃんとお姉さんが呼んでるので早く行かなきゃ!
「この洞窟を抜けると宝物があるよ。だけどボスがいるから気をつけてね。」
おばあちゃんが本を読んで解説してくれます。
「うん。大丈夫。ここまでのことはちゃんと小説に書いてきたから。きっと勝てるよ!」
実はこの世界では、自分が書いた小説の読者数によってレベルアップするんです。まださっき小説を書いたばかりだからちょっと心許ないけれど、ボスに遭遇する頃にはなんとかなると信じます!
「よし、行こうか!」
先頭は修理屋のお姉さんです。その後にジョンが続いて、おばあちゃん、最後は私です。まあ、私はこの世界は初めてなので仕方ありません。
「そろそろだよ。」
おばあちゃんが私に教えてくれました。うー、緊張します。
グオオオオ!!
大きな声が聞こえました。ボスの声です!
「さあ、セオちゃん!」
修理屋のお姉さんとおばあちゃんが一斉に私を振り返りました。
そうなんです。あくまで仲間のみんなはサポート役。ここは私がやらないといけないんです。
「とりゃああ!!」
私は気合いをいれて剣でボスに立ち向かいました!
ドーン!
しかし、吹き飛ばされる私!
「なんで!?」
私は自分の小説の読者数を確認しました。
ゼロ!?
「ゼロだよ!? まだ誰も読んでくれてない!!」
「あー、今これ流行ってるからね。書き手の方が多くて読み手が足りないみたいなんだよね。」
「で、でも、ゼロって……、おばあちゃんもお姉さんもジョンもタロも誰も読んでくれてないってことじゃ……。」
「え、いや、あの、ちょっとバタバタしててさ。」
「ええええ!?」
やばいです! どうしよう!? 読者数ゼロじゃレベルもゼロです! チュートリアルのボスにも勝てません!
「あ、待って! セオちゃん、ほら、一人! 読者が一人増えてるよ!」
私は再び読者数を確認しました。たしかに一人増えています。
「ほんとだ! 読んでくれたのは誰!?」
閲覧履歴から名前を確認すると、そこに書かれていた名前は……。
「お父さんじゃん! お父さん、娘の小説をこっそり読んだの!? 何やってるの!?」
「あらー。」
「うわあああ! 恥ずかしいけど嬉しいよー!!」
ドドーン!!
お父さんのおかげで私はチュートリアルのボスを倒すことができました。はあ、疲れた……。
「よかったねえ。次の目的地は水星の神殿に眠る古代機械みたいだけど、どうする?」
せっかくおばあちゃんが誘ってくれたけど、今日は疲れたので私は冒険は終わりにしました。
ゲームを終わらせて自分の部屋からリビングに行くとお父さんがいつものようにソファで寝転がって端末を見ていました。
「お父さーん! 何、読んでたのー?」
私はいつものように寝ているお父さんにくっついて甘えます。
やっぱり我が家が一番ですね!
セオの私と読者と仲間たち 加藤ゆたか @yutaka_kato
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