侯爵令嬢、来訪

第6.5話 とある青年の後悔

 昔、聖教国に請われてとある少年に剣を教えた。


 少年は銀色の髪を汗に浸し、遠くの何かを取り戻そうと躍起だった。


「なんでそんなに急いで強くなりたい?」


 ふと、ある時それを聞いた。聞いてしまった。


 少年はそれを見て、笑むように口元を歪ませた。


「―――聖女様のごとく、清く正しく生きるためです」


 たっぷりと間を空けたあとに返ってきた言葉は、清廉さと嘘に塗れていた。

 だが、その時には自分の莫迦ばかさ加減をわかっていた俺は、深く聞かなかった。下手に巻き込まれたくなかった、というのもあるし、少年の理由をと俺の勘が言っていた。


 だから。


「そうか、頑張れよ」


 そういって、少年の頭をなでるにとどめた。


 彼はその後、聖騎士団の長になった。

 聖騎士団の長になったと思ったら、枢機卿になっていた。


「――枢機卿が言うのであれば、俺は忠実に貴方が魔を祓う為の矛となりましょう」


 いつか頭をなでた彼の目の前で跪いて、一時的な恭順を誓う。

 それを見て、傷ついたような、擦り減ったような。そんなくらい目の彼はにこやかに笑う。


 ――彼を理解せずとも、救うべきだったのだ。


 それに気づいたときからもう、俺の中から後悔という霧は晴れない。

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