第7話 魔王様はただ多忙(1)

 銀の平原での宣告から1週間。


 魔王ペルソナことアルノー・ル・ペルソナは、自らの居城で執務に追われていた。

 無理もない。

 魔王の庇護下に属するのは、ほとんどが元人間だったものたちだ。

 それが故に、ああしてほしい、こうしてほしいという要望が強い。

 その上、魔王が代替わりしたせいで建国したばかり、のような状態になっている。


 積もる課題は兵站へいたん、軍備、施設、エトセトラ、エトセトラ……。

 もともと為政者の一人として、聖教国で執務をしていたアルノーにも限界が来た。


「だあああ!もう、なんでこんな、こんなァ……ッ!!」

 アルノーが勢いよく腕を上げたせいで、山を作っていた書類の一部が吹っ飛んだ。

 そこは腐っても魔王、腕力も瞬発力も持ち合わせている証明である。


「陛下、魔黒茶をお持ちいたしました」

 宙を舞う書類に当たらず、床に落ちたそれらを踏まず。

 イリーナが湯気を立てた茶がなみなみ入ったカップが載ったトレーを持ってやってきた。

 ブンブンと蠅は舞っているが、彼らは魔黒茶のカップに近づこうとはしない。それは、死の不浄と蠅を司るイリーナの配下である証拠だった。


二進にっち三進さっちもいかないのでしたら、それ専門の部門を作るなどした方が良いように存じますが…」

 差し出がましいことを、と断りを入れつつ、カップを執務机に置いたイリーナが口を開いた内容に、アルノーは首を振る。

「それは俺も考えた」

「さすが陛下」

「……だが、考えてもみろ。軍部の頭であるバルバトス将軍は悪魔族だが、その能力もあまり使えない上に本人は脳筋だとのたまっている。例えばそれに任せれば兵站はぐちゃぐちゃになるだろう。それに、彼の進軍に関しては彼の国の軍師が必死になって調整していたと聞いたことがある」


 行儀悪くも背もたれに体を預けると、アルノーはため息をついた。


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