昆虫の痛覚

八山スイモン

第1話 昆虫の痛覚


痛い



痛い







痛い



痛い


痛い







痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い__________



痛い。



「何が、そんなに痛いんだい?」


分からない。

いつもみたく肩が凝っている痛みではない。ほっぺたを叩かれる痛みとも違うと思う。


「なんで、痛いんだい?」


分からない。

別に危ないことをしたわけじゃない。何気ない日常を送っていただけだ。


「どう痛いんだい?」


分からない。

幼い頃に公園で転んで初めて知った”痛み”とは、少し違う気がする。



分からない。

答えられない。

だから、これはきっと”痛み”ではないのだろう。




__________





痛い。


やっぱり、痛い。



「どこが、痛いんだい?」



うまく言えない。

少なくともこの体の中であることは確かだと思う。

頭?喉?鼻?お腹?背中?手足?

それとも、内臓のどれか?


どれも、違うと思う。

強いて言うなら_____





うーん、痛い。



「いつから、痛むのかな?」



いつからだろう。

最近になってからか。あるいは、少し前に新しい挑戦をしてみてからかな。


あるいは、とても楽しかったあの時からか、無邪気な子供の時からか、あるいは物心ついた瞬間からかもしれない。




あれ?

そういえば、いつから痛むようになったんだっけ?


忘れてしまった。

そうだ、なら


どう忘れたんだっけ。


まぁ、いいや。


痛いって思わなければ、大丈夫だ。





___________






痛くなくなった。


あー、よかった。


これで痛みを気にせずに済む。


「痛みが取れたんだってね!良かったじゃん!」


うん、そうだね。


本当に良かった。


これで、気にするものがまた減った。





ん?







___________







痛みがなくなって、しばらく経った。



何か変わったことがあるかというと、そうでもない。



特に代わり映えのしない日常。



そんな穏やかな日々を過ごせている。



嬉しいな。



好きなことをして、好きな人といれる。



これに勝る幸せなことなんて、無いんじゃないか。




うん、本当に、このままでいいんだ。




別に、変わらなくていいんだ。






___________






幸せな人生だなぁ。




こんなにたくさんの幸せに囲まれて、たくさんの幸せな経験をしてきた。




痛かった時もあったけど、でも総合的に見れば幸せだ。




ああ……
















ズキンッ






あれ?











痛い。





痛い。




痛い。



痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い………






なんでだよ。











!!!!!!!!!














なんでだよっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!





















ただ何かを望んで、それを手に入れるために必死になって、気づいたら色んなものを捨ててしまっていて、なんだかそれがもったいなく思いつつも、でもそれを捨てることで自分は強い人間になれたんだと思って、その場で満足して、進み続けてやり続けることしか知らなかったから、そのままやり続けて、色んなことを達成し続けて、色んな人に褒められて、欲しかったものが少しづつ自分の周りを彩り始めて、段々と嬉しくなって、いつしかそれが面白くなって、同じようなことを続けて、少しづつ水準が上がっていって、満足の許容量が上がって、不満に思うことが増えて、だからそれを補うためにさらに頑張って、色んなものを利用して、時には色んな人すら利用して補ってようやく満足いく感じになったけど、大体その途中で飽きてしまって、いつしか過去を振り返るようになって、そうしたら今自分がやっていることが馬鹿らしく思えてしまって、しまいにはそれをやめてしまうんだけど、未練がましくも保険を残してしまって、大体のことに区切りをうまくつけられなくて、そして時間がどんどんと過ぎていって、自分でもびっくりするくらい歳になってしまってたりして、「あーやばいなー」って焦るんだけど、保険のせいでやっぱり焦れない自分がいて、ウジウジクヨクヨしつつのんべんだらりとして、いつの間にか区切りをつけてしまった時の自分に戻って、それでのらりくらりとしているうちに、いつの間にか何かに没頭してて、その時にまた「あー、自分のやるべきことはこれなんだ」って思い立って、勇気を出してまた新しいことを始めて、今度は自分でもびっくりするくらいに物事が上手く進んで、いつの間にか偉い人になれていたりすごい実績を叩き出せて、やっぱり今回も同じように色んな人に褒められて、いつしか自分も舞い上がっていて、「どうだ!自分はすごいんだぞ!」ってことを知らしめたくなって、らしくないやり方でアピールとかしてみて、案の定いい反応されて上機嫌になって、また次のことを始めてみるんだけど、昔ながらの言い伝えというべきか、こういう調子乗ってる時って結構足をすくわれることが多くて、嫌な予感とかはしつつも順風満帆になって、大丈夫かな〜って軽い気持ちでいたらやっぱり綻びが生じて、しくじって、ヤバくなったりするんだけど、人間って図太い生き物だからか、嫌なことは綺麗さっぱり忘れてしまっていて、みんないなくなってしまったりするんだけど、自分だけは未練を捨てきれなくなって、また再スタートを切りたくなって、いつしか自分一人でいいんじゃないかと思い始めてみるんだけど、そんな時にはもう疲れてしまっていて、もうやる気も起きなくなってしまっていて、もうここまでかなーと思ったりもしたんだけど、昔の夢を思い返してみて「思い立ったが吉日」って思って、不器用ながらもまた新しい挑戦をしてみて、今回は変な考えを持ち込まないようにしようって思って、そうして何かやってみて、綺麗な心で何かを始めてみるんだけど、もう満足の水準が下がってるから、ちょっとやそっとのことで満足して、それなりの幸せを手にすることができて、周りの人からも尊敬されることが増えてきて、そうしていくうちに「人生とは〜」みたいなことに目覚めて、心がゆったりする時しか無くなってしまって、昔のように嵐のごとく感情が昂っていた時代を忘れていて、それで別にいいんだど綺麗さっぱり割り切ることができて、いつしかそのまま忘れていった。


でも、やっぱり忘れ去ることができなくて、自分でも気づかないうちに、無意識のうちに後悔し続けていたんだなってことに気付かされて、やっぱり自分も人並みに「クズ」な部分があるんだなってことに項垂れて、そうしてため息だらけの毎日になってしまって、鬱屈して、ネガティブだらけの頭になっていくんだけど、なんとかそれを振り払いたいと思うようになって、振り払うために考えるのをやめたくなって、それを物量で誤魔化したくなって、何も考えずに色んなことをして、後悔する時間もないくらいに何かに没頭して、そうしたら都合よく忘れることができて、あーよかったと思って、そのまま没頭してる自分に没頭することができて、段々といろんなことを忘れやすくなって、そんな自分を段々と受け入れるようになっていったんだけど、ふとした弾みに昔のことを思い出してしまって、今の自分が後悔を拭うための行動に身を染めていたことが分かって、そうしてまた過去の繰り返しをしそうになってしまって、同じことを繰り返していることに嫌気がさすんだけど、だからといって何か新しいことを始めたらまた昔の後悔を繰り返してしまうんじゃないかって思って、そのまま何もしないことを美徳に生きていくようになって、段々と何もしないことに慣れていくんだけど、それだと周りがうるさくって、そのうるささを振り払いたくて、なんやかんやで何かを始めて、そうしてまた過去を繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返し、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返して…………












そして、いつしか今日になっていた。











あー、神様。


仏様でもいいや。





ねぇ。























一体どれが自分なの?


一体どれが唯一無二の自分なの?


一体どれが一番すごい自分なの?


一体どれが一番望んでいた自分なの?


一体どれが最も適切な自分なの?


一体どれが一番簡単な自分なの?


一体それが一番認められる自分なの?




一体、どれなの?













私のこの痛みは、誰が直してくれるの?


この痛みは、どうすれば直るの?


この痛みは、何が原因なの?


この痛みは、どうすれば感じずに済んだの?


この痛みは、何をすれば我慢できるの?


この痛みは、どうすれば感じずに済むの?




この痛みは、なんで存在するの?








ああ



本当に




あの蝶々は綺麗だな






飛んでいけ








なんの痛みも、感じずに























___昆虫の痛覚 完___

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