第8話 実戦 その2

 狼の群に突進する3人。

 矢藤先輩は、経験豊富なだけあって、有利な場所を心がけて、上手く攻撃しています。

 一と三郎は、連携も何も無く、ただ目の前の敵を仕留めています。手にしている警棒が、魔力で震えています。それで叩きつけると、狼は痙攣して倒れます。スタンロッドみたいです。

 正確には、魔力を直接叩き込む武器で、当たれば狼程度の魔物なら一撃で倒せるみたいです。

 ただ、魔力の消費が激しいみたいです。

「こちらも、援護を開始します」

「仁君は、好きなように動いて、私が援護します」

 状況を見て、判断します。3人から離れた場所にいる狼を狙います。レーザーポンターの付いた銃なので、初心者でもそれなりに使えます。

「まずは、普通に・・・」

 加速魔法を使っていないほうの銃で攻撃します。

「ぎゃうぅぅぅ!!」

 射撃スキルもあるので、結構な精度で狼に当たります。流石に、当たり所が悪いと、一撃では倒せません。

「次は、こちらで・・・」

 加速魔法をかけてある弾丸で攻撃。

「ぎゃぁっ」

 2倍の速度の銃弾は、衝撃波を発生させ、命中した狼は粉々になりました。

「2倍で、この違いですか・・・」

 色々と、科学的根拠とか、無視した現実がここにあります。魔法の世界は伊達ではないのでしょう。

 足元のチャウスも、色々とおかしい存在です。こちらの動きに合わせて、移動しているけど、振動を感じません。広域のレーダーも、どんな技術が使われているのか不明です。

「仁君、このポイントを攻撃お願いします」

「了解」

 なつ様から、支援要請です。状況を見ながら、的確に指示を出してくれます。VRゴーグルと現実がリンクした装備を使用しているので、指示も伝わりやすい。

「リロード、大丈夫?」

「ありがとう」

 適度に、リロードの事も教えてくれます。おかげで、何とかなっています。

 狼は、あっという間に全滅しましたが、追加で別の群がやってきました。

「多すぎない?」

 その数、200。

「別々のパーティと戦闘していたみたいです」

「していた?」

「撤退中のチームが3つ確認できます」

「そう言えば、ここスタート地点の側だよね」

 迷宮から出るには、ここに来るしかない。

「流石に、あの数は危険だ。撤退する」

 矢藤先輩は、そう判断しました。おそらく、それが正解です。

「ちょっと、助けてっ!」

 こちらに向かってくる生徒が叫びます。同い年の子だと思います。引率の先輩の姿はありません。

「どうする?」

「ギリギリまで、援護しましょう」

「了解」

 なつ様は、ギリギリまで援護する方針だった。遠距離攻撃が出来るから、当然の選択。

「加速魔法、重ねがけは出来る?」

「魔力の消費が大きくなるけど、可能」

「お願いします」

 なつ様の指示に従い、重ねがけを行います。4倍速で打ち出された銃弾は、衝撃波を発生させ、敵を貫通しました。狼達は、爆撒していきます。射線を間違えると、見方も巻き込みます。

「場所は指定します。あと、魔力を貰います」

「必要?」

「演算能力を強化するのに、EQが必要なの」

「頼む」

 なつ様の指示する場所を、銃撃します。狼の群は、次々と数を減らします。

「これだったら、逃げないで良いな。反撃するぞ!」

 矢藤先輩は、状況を見て方針を転換。それに続いて、一と三郎も走り出します。

「馬鹿野郎!」

 そのせいで、射線がふさがれました。攻撃できる範囲が狭まり、群に追われていた人の、数人が追いつかれました。途端に上がる悲鳴。確認は出来ませんが、生命反応がいくつか消えました。

「仁君、体を固定します」

「何か、策があるの?」

「これを使ってください」

 チャウスの中から、銃が出てきました。

「これは?」

「試作の仁君専用のアサルトライフルです」

 子供でも使えるサイズの、ライフルです。

「弾薬は、こちらで用意しました。数がああまり無いので100発でなくなります」

「利点は?」

「有効距離が長いです。こちらも、移動します」

「了解」

 チャウスが、移動を開始しました。移動しながらの射撃は、正直当てられる気がしません。

「こちらに、あわせてください」

 僕が攻撃しやすいように、なつ様はサポートしてくれます。おかげで、命中率70%を維持できます。

 体が固定されているので、身体能力を強化します。振り落とされないように、必死です。

「何で、こんな目に!」

 気がつけば、三郎が狼囲まれていました。一人で突撃した結果です。一郎は、矢藤先輩と連携しているみたいです。盾を使い、上手く敵を足止めしています。

「助ける?」

「そのつもりです」

 なつ様の指示に従い、狼を撃ち殺します。

 実戦を経験して、射撃の腕が上がったのを実感できます。レベルも、上がったみたいです。

「ライフルの残弾は?」

「20です」

 運悪く、別の群がやってきます。何か、危険な事態が起きているみたいです。

「加速、加速、もう一度加速!」

 8倍に加速した弾丸を用意します。これ一つだけで、1万の魔力を消費しました。

「ライフルなら、超音速を超える速さになっても不思議ではないはずっ!」

 引鉄を引きます。

 轟音を撒き散らし、弾丸は進みます。この銃の弾、特殊な錬金術で作ってあるので、摩擦ですぐに消えるという事はありません。

「次弾用意・・・」

 通過した場所に、道が出来ています。死体の山が脇に積みあがっています。

「ソニックライフルッ!」

 射線は、なつ様が計算してくれます。2度の攻撃で、狼の群の8割が消滅。その間に、囲まれていた三郎が死亡しています。絶望に染まった、死の直前の表情は、忘れません。

 その後、救助要請で駆けつけた教員の助けもあり、狼は全滅しました。数が集まった原因は、魔物を集めるスキルを隠していた生徒がいたからでした。

 危険なスキルは、申告する必要があります。効果を誤魔化して、有利になろうとした結果です。

 学生の死亡率の高い原因は、スキルの使用です。上手く使えない、自分だけ有利になるとして、自滅など、色々です。

 この結果、その生徒とそのパーティが指導員を含めて全滅。暴走した狼の集団によって、10人の生徒が死亡。最初の迷宮でで死者が出るのは、毎年の事と教師は言いました。

 身近でも死んでいます。助けを求められても、出来ませんでした。

 全てを、出来るとは思っていません。思ってはいませんが、色々と、辛い日になりました。

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