試運転、エリゴール

 幹部アビスの極秘専用艦、『エリゴール』はクローク状態でアビス・ステーションから発進した。

 エリゴールは全長200メートルほどの尖ったナイフに似た形状の小型艦で、指揮能力を一点に凝縮させたかのようなふねだった。

 観測と攻撃を行う専用の小型無線兵器オービット(ビット)を数十個程度装備しており、周辺を回遊することでクローク時にも視界を確保することができる。

 それがなくとも、大量のドローン及び味方艦を一括管理する機能が備わっており、荒れ狂う戦線を一括で支配することができる艦だ。

 低速で発進、のち推進力停止。

 低速度で宇宙空間を回遊する。

「ご気分はどうですか?」

 技術者に問われ、アビスも気分良さげに応じる。

「居心地は悪くない。さすがに頭が忙しいが」

 アビスの居るコックピット内は、自分が普段生活している管制室をそのまま縮小して持ってきたかのような場所だった。

 アビスは、艦とインプラントを連動してカプセルドと同等前後の操縦能力を持っていた。

「情報の海でおぼれそうだよー」

 愛猫、フェイトがそう言う。インプラントの電子精霊が一番大変そうだった。

「情報は私も処理している」

「主に経済と力関係をね」

 これはアビスの脳内でのやり取り。

「性懲りもなく宇宙警察は戦力をかき集めているらしい。

 今度は攻城戦艦……。そして艦載機母艦か。

 無論、細かいのは多数だ」

「嫌がらせ程度では済みそうにないですね」

 技術者の1人がそう応じる。

「宇宙警察はカプセルドの技術を手に入れた。

 さらに、ネオ・エデン社は宇宙警察にもこちらの技術を流しているはずだろう」

「迷惑な話です」

「見返りは、領土と保安か」

 技術者の声に、アビスは軽く応じた。

 アビスはノア社が無事に大企業になれるものだとは思っていない。

 自分が妨害するからというのもあるし、宇宙警察も噛んでくる。

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