罠の猛進

 宇宙ステーションは通常、数百から数千キロメートルに渡ってワープ妨害装置が働いている。

 電力は食うものの座標を確定するのが非常に困難になり、核兵器を転送するという旧来は効果的だった手法はもう通用しない。

 アモルドが支配するクローク戦艦は、ノアの本社の約1万キロ近くまでワープして接近すると、推進装置で進むこととなった。

 一度加速しきってしまえば、あとは無重力下だ。燃料の消費は最小限で済む。


 アビスが保有する『カプセルド・パイロット』たち500名が、ゼート・Dー959の宇宙警察・ステーションへと進軍していた。

 数万キロまではワープで、それ以降は遮蔽技術を用いての隠密行軍だった。

 命令を果たすべく、それぞれが動いていた。


 ノア社と宇宙警察。

 先制攻撃を仕掛けたのは宇宙警察の方だった。

 唐突に、四つある戦艦群の一角がほぼ全て消し飛んだのだ。

 老練な紳士であったノア社の社長は、「クローク艦か」と呟く。

 そして、指示をう配下の者にすぐに命令を出した。

「持ち場を離れるな。まだ相手の戦力はたかが知れている」

 ノアの本社ステーションには核融合爆発の猛炎もうえんすら防ぐ強力な電磁防壁が展開されている。

 あまりに電力消費が大きいため、10時間程度しか保たない防護壁だ。

 アモルドの駆るクローク艦は、戦線の突破口を作るべく敵艦隊の一角の撃破と、核兵器が仕込まれていると思われる小惑星アステロイドに核砲弾の連打を浴びせていった。

 これを静観している社長ではなく、無人ドローンや少人数の乗組員の小型高速戦闘艦、そしてステーションに数多設置された核ミサイル発射器ランチャーによる宇宙空間の範囲制圧攻撃に入っていく。


 アモルドが核の炎を回避すべく一次後退を行い、後方の援軍と合流する。

 核兵器の迎撃は、これで行うのだ。

 アモルドに一報が入ったのはその時だった。

『本部から指示が来ません。

 現地指揮官のあなたに司令をゆだねます』

 『報が来ない』という報である。

 様々な状況が考えられたが、ノア社を壊滅させるのはこの宇宙の安全のためには重要な案件だ。

 アモルドは部下の艦に通達する。

「揃って、進軍する。

 指揮権は作戦開始前のまま、第一が私、第二が……」

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