開戦準備

「社長は宇宙警察と仲良くする気は無いらしいわ」

 時間差会議の文面で、マルドはそう伝えてきた。

 意思の確認程度の話だが、重要度は低くない。

「旧ジレット・ステーションも取り戻すか、やはり証拠ごと吹き飛ばせ、と」

 マルドは追記してきた。

 違法な生体実験などの記録が幾つか流れている。

 社長が把握していたものや、宇宙警察傘下さんかの報道関係者がノア社を糾弾きゅうだんする記事を書き、何百AU先の彼方かなたまで情報は届くのだろう。

「周辺地域から宇宙警察を根絶やしにする感じか。

 全面戦争、といったところかな。

 半端な戦力では返り討ちにうだけ。社長もその辺はわかっているはずだけど。下手をしなくてもノア社全体が壊滅する」

 アビスはそう返信を送信した。

 すぐに返事が来る。

「宣戦布告文は執筆済みらしいわ。

 問題はいつ送るか、ね」

 やれやれ、とアビスと愛猫のフェイトは顔を見合わせた。

「『ここはノア・テクノロジーズの領土である。

 法や治安もこちらで用意する』、といったところね」

「犬死には御免ごめんこうむる。

 宇宙警察との戦争には、少なくとも膨大な数のドローンに相当数の戦艦、複数の攻城艦が要る。

 『カプセルド』も優秀だが、数は心許こころもとない」

 それでも、一応はフェイトと連携して戦力の計算を行うアビスだった。

 管制室には、最新の宇宙警察の戦力などが表示される。

 数は圧倒的に相手が上。

 技術力では、こちらがかなり優位ではある。

「社長は他の会社に戦力増強を依頼したようね。

 そっちはもう、宇宙警察の及ばない独自の派閥はばつを持っている大規模な会社だけど」

「大方、技術提供でもしたのでしょう」

「あなたの新しい攻城戦艦のバリア技術とかね。

 『カプセルド』もそう」

 アビスは嘆息たんそくした。

 どうやら本格的に保身と、領土の獲得をしなければならないようだった。

 マルドが念押しするように言う。

「ノア・テクノロジーズは優秀な技術廠テクノスから、昔で言う国家規模の組織にサイズを上げるつもりなのよ。

 うまく動けば、莫大な利益が転がり込んでくる」

 アビス・ステーションの管制室が経済の動きに切り替えてホロが映し出されていた。

 明滅するデータを眺めると最早もはや、後戻りができないほどに兵器類の売買が行われている。

「戦争か……。

 できれば、早期に決着を着けたいものだが」

 アビスはそう、独り言を言った。

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