躍動するカプセルド

 まるで予知能力者だ。

 そう、宇宙海賊の一人は思った。

 海賊の駆る艦は荷電粒子砲かでんりゅうしほうが電力キャパシタの都合上使えなかったが、代わりに実体弾の電磁投射砲レールガンを装備し、高速の襲撃を非常に得意とする艦隊だった。

 安く、速く、上手いこと動けば敵艦を襲撃して輸送品などを奪い取る算段だった。

 ノア・テクノロジーズのアビス・ステーションが『管理』する周辺宙域だったが、そこで中型の戦闘艦1隻に出くわした。

 宇宙警察か、ノア社のアビス・ステーションの手のものか、野良の艦か。

 いずれにしても良いカモになり得ると思っていた。

 ちょうど十隻の海賊艦隊フリートはその艦を襲撃した。

 結果は、戦闘開始から2分で5隻の艦が粉砕された。

 敵は今のところ荷電粒子砲を使用しており、中型の戦闘艦ということではそこまでおかしくはなかった。

 おかしいのは動きで、まるで生き物のように自由自在に宙域を動き回っている。

 推進装置が各所にあり、無重力下でひどく柔軟な軌道を描いている。

 速度も海賊の高速艇が出せるものをだいぶ超えている。

 この規模の艦なら最低でも十人、多くて数十人程度で動かす。

 そのため、こんな複雑な動きはできないはずだった。

 死に瀕した海賊は、それでもいぶかしんだ。

 こちらの攻撃はかすりもせず、電磁加速した砲弾が虚しく宙域を飛んでいくだけ。

 どこから電磁加速砲弾が射出され、どの軌道を描くのかを発射前から知っているかのようだった。

 爆光。

 その海賊たちは全員凄まじい光を見て、直後に荷電粒子により艦船ごと焼かれて死死亡した。

「こちら『カプセルド』のモーロットだ。

 敵海賊艦艇・高速船を10隻、全員始末した」

 50人居るアビス社のカプセルドの一人が、情報を幹部・アビスに送信した。

 戦闘には、なんの手応えもない。

 赤子の手をひねるようだった。

 脊椎への改造手術にはやや不安があったのは事実だが、最近はこうした肉体と電子機器のハイブリット改造やサイボーグ化は珍しくもない。

 『カプセルド』は旧・ジレット支社(現在のマルド&アビス支社。ただし宇宙警察が接収中)がメインで開発していた技術だ。

 旧・ジレット支社が動物や奴隷、その他実験参加者などで多数の実験を繰り返し、完成に持ち込んだ技術がこの『カプセルド』だった。

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