パージ作戦5 任務遂行

 アビスとマルドの部隊は攻城戦艦二隻を筆頭に、ミサイル等の迎撃艦隊を配置。

 恐ろしいことに、ジレットは海賊たちに核兵器を流して戦線を維持することにしたようだった。

 核ミサイルが発射されるが、全弾がレーザー、荷電粒子砲、迎撃用小型ミサイルによって中途迎撃され、巨大な爆発は起こる気配がない。

 戦線そのものは横に数千キロメートル一帯まであり、戦線はやや縮小しつつも、戦火そのものは派手に拡大、火花が散っていた。

 敵対するステーションだが1:2という戦力差は大きく、ジレットの本拠地とはいえども限界を迎えるのは時間の問題だったようだ。

 戦争開始から数時間後、ジレットの配下であったあらかたの宇宙船が始末されるか撤退したのを確認して、アモルドは無線を開いた。

「こちらはアモルド・J・ノーランド大佐、宇宙警察だ」

 警告メッセージとして、特大のサイレン付きでアビスとマルドの攻城戦艦に流してやった。

「ああ、今知った。

 クロークの戦艦級とは、恐れ入ったよ。

 ここはお互いに利用し合う、ということで良いのかな?」

 素早く、だが冷静にアビスは返答した。

「わかっているな」

 アモルドも返す。

「どういうこと?」

 マルドは疑念の声を上げる。

「マルド氏。すぐに撤退しましょう。

 大量の宇宙警察のドローン部隊あたりが来ます」

「……なるほど、その戦艦は位置を知らせるための信号装置なわけね。

 細かい話は後にします」

 流石さすがに現状は飲み込めたようだった。

「たった今、脱出用シャトルが出た。

 ジレット氏はこれに乗っている、不本意だが身柄は宇宙警察に引き渡し、我々はステーション以外は・・・・・・・・・見逃すことにする」

「わかった。

 いや、なんだって?」

 言うが早いか、アビスの攻城戦艦、その縦長のアンテナのような、ごつい装飾品のような二本。

 その特徴的な形状が真横に倒され、軸が本体と一体化する。

可変式かへんしき、だと!」

「特徴があるのは、なにもそちらの戦艦だけではない。

 こちらは高速船速モードで単騎、ジレット・ステーションに突撃を行う。

 邪魔はしないでくれるな」

 アモルドはまだ残るステーション内の人命について言いかけたが、それよりも今すぐにクローク機能をかけるように部下に厳命した。

「これは、賭けになる」

 アモルドが苦鳴のような声を出した。

 クローク機能が再起動するまでは30秒といったところだ。

「ノア・テクノロジーズのアビス殿!

 貴方に最低限の慈悲の心、あるいは戦闘よりも保身を優先する気持ちがあれば、この場はそのやいばを収めてくれはしないか!?」

 声は届き、そしてクロークが機能する。

 クローク戦艦はいつどこからでも攻撃ができ、そしてアビス側は索敵が叶わない。

 既にアビス側の艦隊も、その多数がワープドライブを起動して戦線を離脱している。

 アビスは若い女性らしい。

 彼女が鼻を鳴らした。

 暗黒の宙域に、声が電波となって飛ぶ。

「闇討ちする側の発言だが、たしかにその刃は届くな。

 ジレット・ステーションは、いったん預けるぞ。

 いずれ、我々が取り戻す」

 アビスはアモルドにそう伝え、攻城戦艦は機首の向きを変えてワープ妨害装置の外側にまで脱出して、離脱を開始する。 



「ああ、恐ろしかったな」

 アビスの攻城戦艦にも、核ミサイルの用意くらいはあっただろう。

 気が向けば、アモルドの居る付近一帯ごと、爆炎で焼き払うくらいは可能だったかも知れない。

 一隻を落とすだけのために飽和攻撃をする資産的余裕を勘定されたのか、それとも……。

 本当のところはアビス当人にしかわからないのだろう。

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