クローク戦艦

 ゼート・Dー959。

 アビス・ステーションのあるアゾルテよりも、数千万キロの彼方にある。

 宇宙警察の大規模ステーションが存在することで有名な区画だ。

「君には、最新型の遮蔽クローク戦艦を指揮してもらう。

 一隻しか調達できていない、一級品だ。

 ワンオフ、というわけではないが、量産するには予算に技術力が足りていない」

「クローク戦艦……? ですか?」

 宇宙警察の現地部隊を直接指揮する若き艦隊長、アモルド・J・ノーランドはいぶかしげな顔を、上官の提案に対して返した。

「君は奮戦ふんせんしたが、結果がかんばしくないのは事実だ。

 これは決定事項だ。乗ってもらう」

 先の大規模戦闘――通称『アビス戦争』において、宇宙警察と海賊がアビス・ステーションに利用される形となったのは界隈かいわいでは周知の事実だ。

「ご命令、ですね。

 了解しました。拝命いたします!」

 アモルドは上官に敬礼をする。

「アビス・ステーションを指揮する、おそらくは幹部自らが大艦隊で移動中だ。

 動きを監視し、こちらの命令があるまで追跡・尾行せよ」

「探知される可能性はないのですか?」

「ノア・テクノロジーズの技術を介さず、独自に設計した最新艦だ。

 100%の保障はないが、99%程度までなら保証する」

 上官はそう言い、軽く笑った。

 遮蔽クローク機能は通常、ドローンや小型艦に搭載されることの多い機能だ。

 電力消費に難があるので、待ち伏せや闇討ち的な襲撃に使われる。

 戦艦と呼ばれるほど大きな船を遮蔽するアイデアは別段特別ではないものの、運用面でも技術面でも高い組織力を必要とする。

 ただの一隻で例の化け物じみたアビス・ステーションの幹部につきまとえというのは、かなりの大仕事になるはずだった。

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