エピローグ パージ

 戦争が終わった。

 アビス・ステーションはほぼ無傷。人的損耗は皆無。

 海賊は壊滅し、宇宙警察も甚大な被害を受けてしばらくは身動きが取れないようだ。

 宇宙警察はにアビス・ステーション一帯に対し、危険区域の評価を下し通商などに注意喚起するように設定したが、ほぼ苦し紛れの発信だ。

 捜査はうやむやになり、事実上の取り消しである。

 なんとか生き残ったアモルドは「実に都合がいい話だな」といきどおった。

 アビス・ステーション、あるいはノア・テクノロジーズに利用されていることをアモルドは十分に理解していた。


「『ナノ・パイレーツ』の事実上の消滅が認定された。

 悔しいが、賭け金を支払うわ」

 文章会議で、アビスとの賭けを提案していた幹部が、莫大な支払いを終えた。

 振り込まれるにはやはり時間差はあるが、アビスとアビス・ステーションの力はさらに強化されたわけだ。

「いくら海賊と宇宙警察を釣るためとはいえ、核兵器を密輸送したのは厳罰に値する重大な背反行為だ」

 別の幹部、以前解任パージをちらつかせて脅してきた男がそう通達してきた。

 アビスは一応、反論を述べる。

「結果的には、敵対的な宇宙警察と、さらに敵対している宇宙海賊に大打撃を与え、我々ノア・テクノロジーズの今後の利益は確保できたはず」

「ジルド・B―299でも、核レールガンを使った」

 なおも食い下がる男だった。

「その件だけど、大規模な海賊船団が伏せていた理由がまだ残っているわ」

「それについては、私が話す」

 話に入ってきたのは幹部ではなく、ノア・テクノロジーズの社長だった。

 社長は話を続ける。

「アビス君が提供した様々なヒトとモノの流通経路から裏が取れた」

 情報が多重に示される。

「B―299で海賊を伏せさせたのも、先のステーションへの飽和核攻撃も君の支援によるものだ」

「さて、私は当該幹部の解任パージを要求しますが?」

 アビスは返す刀でそう言い、即座に臨時の投票が行われる。

 1時間後に解任要求が、投票権のない当該幹部を除いて全員賛成で議決された。

 『元』幹部は即座に死刑になるほどではないがその身柄は拘束。

 主を失った当該ステーションの管理権は、アビスと近場の幹部に任された。

「遊技場が増えたね。

 次はなにで遊ぶ?」

 黒猫のフェイトの無邪気な言葉に、アビスはやはり無邪気な微笑みで返した。

「なんでも来い、だ」

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