丸くなったアビス(おまけ短編の短編)

「アビス、太った?」

 愛猫あいびょうの黒猫(羽つき)、フェイトがそう言った。

「食事制限なんて必要ない!!」

「わー、まだ怒ってるの?

 食事の量を減らしたことについて。

 お食事係の人が怖がって、不気味がっていたよ」

「お前が給仕係との会話中に話しかけてきたからだろうが!!」

 灰色の目が揺れる。フェイトはアビスの目にしか映らない、正確には脳内にしか出てこないのである。

 現在のこの状況も、はたから見れば精神に問題をきたした、現代でも治療は難しいある種の病人扱いされることだろう。

「コミュしょう

 フェイトが笑いをこらえる仕草をしつつ、そう言った。

 びくり、とアビスの黒髪が跳ねる。

「あなた、私の気にさわることばかり言うのね。

 メンタルの調整も兼ねている疑似人格AIのはずでしょうが」

「内心に衝撃を与えて、成長を促そうという試みだよ。

 失敗しても、平時の今の損害は軽微で済む」

 アビスは「は~」と深く、深ーくため息を吐いた。

「きっと皆、私のことが怖いんだわ。

 私って、インプラントのせいで無駄に頭が回るようになったし、戦争の指揮とかで何人も殺しているし。

 嫌いにならないわけがない」

「おー、よしよし。

 殺害人数は指示を入れてもまだ推定6万4000人くらいだよ」

 何の慰めにもなっていない。

「間食でピザを頼もうかしら」

「わー、待った!! このままじゃ本当に肥満体型ひまんたいけいまっしぐらだよ」

「良いじゃない。今まで奴隷どれい餓死がしするかと思ったこともままあるんだから」

「昔は昔、今は今。

 現在は、この宇宙という大海原でも最高級の生活だよ!

 それは保証する!」

 椅子の背もたれに全身を預けたアビスは、

「あれだ、恋愛とか色恋沙汰的なのを用意しろ。

 厳命する」

「それは却下。

 職務に影響を及ぼすことは許諾できない」

「わーってるよ。ったく。

 本当に最高級の生活、なのかな?」

「僕はそう思うけど。

 いきなり核兵器が襲ってきても死なずに済むし」

「使い倒されて終わるのは嫌だし、宇宙の果まで行ってみるか」

「ひきこもりだけどね」

「消すぞ? 存在を」

まにまに」

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