第33話

「そうか、それは残念です」


 私は後日、アンドリューと一緒にウィリアム男爵の元へ訪れていた。


「こんな事ならもっと前からアプローチしておけば良かったなと思ってももう後の祭りですしね」


 そう少し悲しそうにウィリアム男爵は微笑む。


「その、本当にごめんなさい、色々お世話になったのに」


 私は思えばウィリアム男爵からも色々と助けられているだけに、何だか心苦しい。


「いや、今までだって私の判断ですし、気に病まずとも良いんですよ」


 そうウィリアム男爵は答えてくれた。

 なんて聖人の様な人なのだろう……!


「まあ、たまには遊びに来てください、レイラお嬢様に、それにアンドリュー君も」


「ふん」


「ちょっとアンドリュー、失礼でしょ?」


 やはりアンドリューとしてはあまりウィリアムの事をよく思っていないらしい。

 まあ、恋敵なら仕方ないかもしらないが。


「……まあ、でも色々ありがとうございました」


 そう小さくアンドリューはウィリアムにお礼を言った。


「ふふ、結婚式には是非呼んでくださいね」


「「け、結婚!?」」


 私とアンドリューは二人揃って驚いた。

 その反応が面白かったのか、ウィリアムはハハハと笑っていた。


 結婚、かぁ

 本来であれば、私はダニエル伯爵と結婚する予定だったんだっけ?

 そういえば、ダニエル伯爵はあの後どうなったんだろう……?


 まあいいか。



 一方ダニエルの方は、ユーリに根こそぎ財産を絞り取られそうになり、とうとう我慢ならず婚約破棄を申し出た。


(まさか、婚約破棄をした次の日ユーリお嬢様が捕まるとは……

ユーリお嬢様と結婚しなくて良かった)


 と、すんでのところで何とか窮地を脱していた。



 それから私はアンドリューから返して貰った500万ルーペを全て街へと寄付した。


「本当に良かったのかよ?」

「ええ、だって私が稼いだお金じゃないし」


 それから私と、アンドリューも働き出して、この街でごく普通の平民として過ごしている。


「普通の平民の割には知名度は高いけどな」

「未だにお嬢様呼びされちゃうしね、まあいいけど」


 妹のせいで家を追放されて、色々な事があったけど、どれもこれもかけがえのない経験になった。


 きっと、これからも大丈夫、なはず。


「ほら、行くぞ」

「うん!」


 そう私は彼の手を握って歩き出した。

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猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。 本田ゆき @hondayuki

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