第6話 詰所
オスカー達はケンブルクの憲兵隊の詰所へと案内された。そこは正門から続く大通りをすこし進んだところから横に少しそれたところにある大きく立派な建物であった。入り口の前にも雌雄一対の獅子の彫刻が座り込み、来訪者達を見据える。
どうやらここは襲撃を受けてはいないようだ。壁には風雨で劣化した跡を除くと殆ど傷が見当たらない。少し違和感を覚えながらも、馬車は詰所の前の広場へとたどり着いた。
「ここが我がケンブルク憲兵隊の詰所です。どうぞ中へ」
そう言って憲兵隊長、フランツは詰所の扉を開ける。
オスカーはヘレナの手をしっかりと繋ぎ、フランツの案内に従って中に入っていった。
詰所へと足を踏み入れたオスカー達を出迎えたのは広々としたエントランスと、大きな黄金のシャンデリア。床には大きな大理石が使われ、その上にはビロードで出来た滑らかで美しい赤のカーペットが敷かれ、壁には甲冑をまとった騎士の絵画が幾つもかけられている。その他にも様々な物が至るところに配置され、中には西の大洋を渡った先にある新大陸の物と思われる奇妙な品まであった。
「すごーい……きれーな所だねおとーさん!」
そう言って目をキラキラと輝かせ、ヘレナはエントランスを見渡す。
「あぁ、流石はこの大陸の東西南北を結ぶ交易の中継地。憲兵の詰所がこんなにも豪華とは思っても見なかった」
そう返事をしたオスカーもまた、ヘレナ同様エントランスを見渡す。
もはや憲兵隊の詰所と言うより巨大な騎士団の宮殿や城の用に思えるほどだ。
「ここにある物は全て商人ギルドや物流ギルド、冒険者ギルドのコンキスタドール《征服者》部門からケンブルク市に贈られた品を、市が憲兵隊に
そのように説明するフランツはどこか誇らしそうであったがふと何かを思い出したようにこちらに振り向く。そして、
「早速で申し訳ないのですが、我が憲兵隊の司令官がオスカー殿に少し事情を伺いたいと言っておりまして……あまりお時間は取らせませんのでどうか聴取室に来て頂けませんか?」
と、オスカーに言った。
「その間ヘレナは?」
「別室の方で待機……という形になります」
オスカーは少し考え込み、辺りを見渡しているヘレナの肩を少し叩いて振り向かせると、
「お父さん少し憲兵さんと話をしなくちゃならなくなったんだが、その間一人で別の部屋で待ってられるか?」
「うん! ヘレナは一人で大丈夫! でも、おとーさん一人でさみしくない?」
「うーん、ちょっとさみしいかなぁ。でも、早く合流出来るようにお父さん頑張るぞー!」
オスカーはヘレナの身長にあわせて屈み、拳を打ち合わせる。
「それじゃ、お父さん行ってくる!」
「うん! 行ってらっしゃ~い!」
そうしてフランツにヘレナを任せ、オスカーはフランツの部下に連れられ、聴取室へと向かった。
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