第5話 正門

 オスカー達の馬車は、壁の大穴からすこし離れた町の正門へと向かう。帝国の北西部内陸にある貿易の中継地なだけあってかなり大きな門で、入り口は三つある。その上、見張り台も整備されている。しかし、先程の騒動のせいもあってか、兵の姿は見当たらない。


 門の上には黄金で作られた雄獅子の像がたてがみをたなびかせ寝そべり、下にいる二人を静かに見下ろしている。




「すっごくおっきな門だねー!」




 門を見たヘレナは目を丸くして、門を見上げる。




「ああ、でもこれよりもっとでっかい門も有るんだぞ!」


「ホントに!?」


「ほんとさ、またいつか一緒に見に行こうな」




 そんな会話をしつつ門の前まで来ると、そこには先ほどの憲兵隊長がたっていた。横には部下の者が数名おり、皆激しい戦闘をしたのだろう。衣服や肌には血や土がついている。




「『大烏』オスカー殿! お出迎えに上がりました!」




 先ほどはあまりよく顔を見ていなかったが、金髪碧眼の精悍な若い青年だ。チラリとヘレナの方を見るとその隊長に見惚れているかの様に、目を皿のようにしてじっと見詰めたまま動かない。頬も少し赤らめている様だった。




「おとーさん、あの人だれ?」


「この町の憲兵隊の隊長さんだよ。お出迎え感謝します!」




 オスカーはすこし近づき、馬車を降りて握手をする。それにつられてヘレナも馬車から降りて握手をする。




「はじめまして! ヘレナです!」


「はじめまして、ここの憲兵隊の隊長をやっているフランツです」




 そう言ってフランツはヘレナにはにかむ。それがどこか気に入らないオスカーは咳払いをし、話題を変える。




「それより、町の方は大丈夫なんですか?」


「部下の方が頑張って事後処理や残党捜索してくれているのでご安心ください。今、門を開きますので少々お待ちください」




 隊長はそう言って門の事務所の方へと向かった。そしてしばらくすると、大きな音をたてて門が開いた。




「ようこそ、ケンブルクへ! 我々はあなた方を歓迎します! ……とはいえ、こんな状況ですのでひとまずは憲兵隊の詰所までご同行をお願い出来ますか? なんでしたら宿の方もご用意致しますので」




 事務所から出てきた隊長はすこし申し訳なさげにそう言った。




「いえいえ、こちらもまだ宿を決めていなかったのでありがたい限りです!」




 オスカー一行は先導する隊長と憲兵の後ろについて門をくぐり、町のなかに入ったのだった。

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