第4話 ケンブルク動乱

 広場の近くまで行くにつれて、段々と状況が解ってきた。襲撃者のうち、教会前で憲兵達と交戦している人数は十人。内魔法を使うのは四人。憲兵達は数では上回っているものの、防御魔法のせいで思うように攻撃できず苦戦しているようだ。既に辺りには憲兵と思われる者の死体が幾つか転がっている。




「隊長! もう持ちません!」


「諦めるな! 時期に司令が増援に来てくださる! 何とか持ちこたえろ!」




 そう憲兵を鼓舞する隊長も、既にボロボロの様だ。身体中に幾つもの切り傷が見える。




「ラバル・ジーク!」




 襲撃者は満身創痍の憲兵達に向かって、そう唱える。すると地面から巨大な木の根が現れた。木の根はそのまま憲兵達に襲いかかる。




「避けろォー!」




 隊長の叫びも虚しく、数名の憲兵が巻き込まれる。そして彼らは動かなくなった。




 そんな状況を見ながら、オスカーは広場の直ぐ近くまで到着した。状況は悪化の一途を辿っている。




 オスカーは腰のホルスターから短銃を取り出す。そして素早く弾を込める。紙製薬莢と呼ばれる紙で作られた薬莢のお陰で、弾の装填はかなり早い。短銃はフリントロック(火打石)式に似ているが、火打石の代わりに赤く光る石『炎の魔石』が着いている。




「おい! 助太刀に来たぞ!」




 オスカーはそう叫び拳銃の引き金を思い切り絞る。放たれた弾丸は、魔法を使っている襲撃者の内の一人の頭部を撃ち抜いた。撃ち抜かれた襲撃者の頭にはぽっかりと風穴が開く。そして前のめりに倒れ動かなくなった。


 オスカーは命中を確認する。そして、拳銃を仕舞い屋根から飛び降り、代わりに腰に帯びた剣を引き抜く。




「誰だ貴様!」




 広場に居た紫のラインの入った黒いローブの襲撃者がそう声を上げる。それに対しオスカーは




「俺は冒険者のオスカー! 『大烏』だ!」




 そう返すと斬りかかってきた襲撃者の剣を弾く。胴を蹴る。そして倒れた所を剣で首を一突きにした。相手は動かなくなった。




「『大烏』……あの『大烏』か!」


「灰の獣グラウの片角をへし折ったあの……!」


「勝てるぞ! 皆もうひと踏ん張りだ!」




 オスカーの到着と相手が二人減ったことで勢いを盛り返した憲兵と修道士達は直ぐに反撃に転じた。




「『大烏』を囲い込め! ジリ貧の憲兵共は後だ!」




 一転劣勢に立たされた襲撃者はオスカーを囲む。だが、




「……遅い」



 正面の敵が手斧を振り上げる。オスカーはその瞬間、がら空きになった胴を斜め下から切り上げた。そして手斧を左手で奪う。更にその手斧をすぐ左の敵の胸目掛けて投げる。それを確認する間も無く今度は右から迫る敵の足を払う。バランスを崩した敵が前のめりになる。そしてオスカーはその敵の首を素早くねた。刎ね飛ばされた首は飛沫を上げながら地面に転がり落ちる。




 そうして瞬く間にオスカーは敵三人を無力化した。背後に残る敵は憲兵が動揺した隙をついて皆排除した。動乱はここに終結したのだった。




「助太刀していただき、ありがとうございます!」




 戦闘が終わったあと、憲兵隊の隊長と思わしき人物がオスカーの前にやってきて、そう礼をした。




「『大烏』のオスカー殿! ご助力感謝します! 一応確認のため、手帳の確認をさせていただきたいのですが……」


「勿論です」




 そう言って腰のポーチから冒険者手帳を出し、それを見せる。そこには『A+』と書かれており、その下に『大烏』と記されている。




「それじゃ俺は娘と馬車を迎えに行かなくちゃならんので、またあとで!」




 そう言うとオスカーは手帳を仕舞い、引き留めようとする憲兵隊長を無視して大穴の方に走り去って行った。











「おーいヘレナー!」




 オスカーは馬車の方へ向かい、そう叫ぶ。すると、




「おとーさん! お帰りー!」




 とヘレナは返し、馬車から顔をひょっこりと覗かせる。




「お父さんが居ない間に何も無かったか?」


「うん! 誰も来なかったよ!」


「なら良かった! それじゃあ、正門の方に向かおうか。ここからじゃシュバルツは通れないもんな」




 そう言いながらオスカーは馬車の御者台に座り、シュバルツに合図を出して、町の正門の方へと向かうのだった。

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