第3話 煙の先

「おとーさん、どうしたの?」


 馬車の後ろからヘレナが声をかける。


「町の方から煙が上がってる。嫌な予感がする……」


「何かあったのかな?」


「解らんが、とにかく急がなくちゃな」


 そう言ってオスカーはシュバルツにもっとはやくと合図を送ったのだった。







 ケンブルクの町に着いたオスカー達が見たものは、町を囲う市壁に空いた大穴だった。そして周囲には町から離れようと走る市民の姿があった。先ほど見えた煙はこの大穴が原因だろう。


「おーい! 何かあったのか!」


 たまたま目の前を逃げていく市民にオスカーは声をかける。


「得体の知れない奴らが突然壁に大穴を空けて、町で大暴れしてる! あんたも早く逃げろ!」


「教えてくれてありがとう!」


 話を終えると先ほどの市民は一目散に走り去って行った。


「おとーさん? どうするの?」


 ヘレナが言う。


「行くしか無いな……危ないから、馬車から出ちゃ駄目だぞ?」


「はーい!」


 そう言ってオスカーは空いた大穴の方に馬車を向かわせた。しかし、瓦礫に阻まれ、どうやら馬車ごと壁のなかに入るのは難しそうなことがわかった。


 オスカーは壁の周囲に誰もいないことを確認してから、


「お父さんちょっとだけ町を見てくるから、ここで待っててくれ」


 と言うと、ヘレナに懐から出した翠の小さな水晶の首飾りを渡す。


「何かあったら、その中のシルフィードが何とかしてくれる。さっきも言ったけど、絶対に外に出ちゃ駄目だぞ?」


「わかった。おとーさんも気を付けてね?」


「おう! それじゃ、行ってくる!」


 ヘレナにそう告げると、オスカーは瓦礫を越えて壁のなかに入っていった。




 町のなかに入ると、そこには大混乱を起こし逃げ惑う市民の声が聞こえた。喧騒は町の中心から聞こえてくる。


 オスカーは周囲を見渡す。どうやらこの地区の市民はもう避難してしまった様だ。


 オスカーはまずはこの町で何が起きているのかを把握するため、家屋の屋根によじ登った。冒険者を生業としているので、このくらいは造作もない。三階建ての建物であったが、難なく屋根までたどり着けた。


 そして彼はは町の中心部へと目を向ける。他の建物が視界を遮りあまり良く見えないが、どうやら教会の前の広場で修道士や憲兵が、何者かと戦闘しているらしい。目を凝らせば魔法らしき光も見える。憲兵と戦闘を行っている集団は、黒い外套を身にまとっている。


「これは急がないとな……」


 オスカーは屋根を伝い、急いでその広場へと駆け抜けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る