第3話 初めての時 (3)
三咲は、優一と別れた後、なぜ自分が“あんなこと言ったのか”理解できなかった。確かに優一は自分の心の中で大きくなっている。でも“あんなこと言うなんて”と思うと心が揺らいだ。
今まで、言い寄ってきた男の子の中に“かっこいい人”や“素敵な人”はいたが、自分の心を揺らすほどの人はいなかった。だから“あんな言葉”を自分から言うなんて思っても見なかった。
自分の部屋で机の前にある椅子に座りながら思いを巡らしているとスマホが震えた。
“誰だろう”と思って着信相手を見ると“真央”と表示されている。三咲はスマホを手に取り指で右にスクリーンをスライドさせると
「真央、三咲。なあに」
「三咲、明日何か用事ある。明日、土曜でしょ。渋谷で会わない」
三咲は、頭の中に明日の予定がないことを確かめると
「いいよ。でも何時に」
「うーん、午後一時位に会ってお昼一緒ってどお」
「いいよ。じゃあ、いつものところでね」
「分った」
スマホの“終了”にタップすると、さっきまで心の中に有ったことが、スッキリしていた。
“真央、何だろう”と思いながら、頭の中で“まあいいか”と思って忘れることにすると机の上に置いてあるノートPCを開いた。
「真央、待った。ごめん」
「三咲、遅い。一五分遅れ。どうしたの」
「ごめん。寝坊した」
「えーっ、寝坊って。もう午後一時過ぎてるよ。何時まで寝てたの」
「一一時半過ぎ。お母さん起こしてくれないんだもの」
「みさきー」
呆れた顔をして半笑いになりながら、
「遅れた罰として、お昼食べるお店選びなさい」
「えーっ」
周りにいる男が見ないようにしながら三咲の姿を見ている。
「結構可愛いな」
「俺もそう思う」
「あんな彼女いたらなあ」
「ムリムリ」
そんな囁きが聞こえるのを耳にしながら
「じゃあ、とりあえずセンター街に行こう」
顔で“うん”という仕草をすると待ち合わせていた“なぜか地上に置かれている電車”の側を離れた。電車の横で“ワンちゃん”の銅像が、“おれの場所とって”という顔をしている。
「ここでどう」
三咲の言葉に“ちらっ”と二階を見ると
「いいよ」
と言って、店の中に入った。
お店の中は、店内の棚にあるパンを取るか、好みのサンドイッチをオーダーするシステムだ。二人はパンと飲み物をカウンターで精算すると二階に上がった。
「真央、ところで渋谷まで呼び出して、なあに」
真央は、パンを皿に置いて三咲の顔を見ると
「実を言うと」
下を向いて“ボソボソ”と言うので
「ねえ、聞こえない。なんて言ったの」
「三咲」
そう言っていきなり涙を溢し始めた。
「どうしたの」
三咲の言葉にますます涙がこぼれると回りのテーブルに座っている人たちが、“なんなの”という顔で見始めたので
「真央、とにかく泣くのやめよ」
そう言って、テーブルの上にあったナフキンを真央に渡すと
「三咲、私、私」
また、泣きべそになった顔で真央は
「彼にふられちゃった」
「そう、ふられたの。えーっ」
今度は三咲の声に回りの人が注目すると三咲は、首をすくめた感じで“いけない”という顔をした。
「どうして。あんなに仲良かったのに」
なにも言わない真央に、またナフキンを渡すと
「いきなり、“もう会わない”って言われた」
三咲は、真央と彼の事を知っている。もちろん、“どこまで”かも。それだけに目の前にいる友達の言葉が信じられなかった。
「それで、真央は、なんて言ったの」
「“誰か好きな人できたの”って聞いたら、“君にはもっと俺よりいい人がいるから”とか言った」
「あいつ、そんな人間だったっけ」
言った後、真央の彼の顔を思い浮かべながら
「いつ言われたの」
「昨日」
「それで私に電話してきたんだ」
なにも言わずに頭だけ“うんうん”という仕草をする真央に
「分った。今日は二人で楽しいことして遊ぼう。真央が嫌な事忘れるように」
そう言って両手で目の前にいる友達の頬を持って顔を上げさせると“にこっ”と笑って
「とにかく食べよ。お腹すいたでしょ」
また、頭だけ頷くとローストビーフが挟んであるサンドイッチを口に入れた。
結局、お腹の満たされた目の前の友達の話を一時間近く聞いた後、二人で公園通りを何気なく歩いた。
「ねえ、三咲、今日夜何か用事ある」
「えっ」
質問の意図が分らないままに驚いた声を出すと
「このまま、渋谷ぶらついて、夕飯も一緒に食べない」
「えーっ」
三咲は、昼食は一緒に食べるつもりであったが、さすがに“夕飯まで”とは、考えていなかった。それに母親にもなにも言っていない。少し、難しい顔をすると
「やっぱりだめだよね」
寂しそうな顔をする友達に三咲は“そういえば真央は大学に通うため地方から出てきたんだ。一人暮らしだから帰っても一人なんだ”そう思うと
「いいよ。真央、一緒に夕飯食べよ」
急に笑顔になる友達に
「ちょっと待って」
と言うとスマホを取り出して電話をし始めた。
「うん、真央と一緒。大丈夫、遅くならないから。うん」
母親に夕飯がいらない事を告げると
「大丈夫だった」
と心配そうな顔をする友達に
「大丈夫。真央と一緒だって言ったら、OKだった」
「ありがとう、三咲」
結局、その後、ぶらぶらして“夕食ちょっとお酒”で真央と分れ、渋谷の駅近くに着いたのは、午後一〇時を過ぎていた。
「おっ、可愛いね。僕と遊ばない」
相手の顔を見て露骨に嫌悪感を表すと
「なんだよ、その顔は。ちょっとこっちへこいよ」
「いやーっ」
回りの人を見ても誰も見向きもされない。今時、面倒な事かかわりたくないのが本音だ。強引に引っ張ろうとする男が、三咲の体に触れようとした時
「止めろよ。いやがっているだろう」
声の主に男が振向くと
「なんだ。てめえは」
「その人の知り合いだ。その人は、僕と待ち合わせていたんだよ。人の彼女を横取りするもんじゃない」
そう言って男の目の前にいきなり拳を突き出した。殴ろうとした訳ではない。男は、その拳を見ると
「ちぇ、男がいたのか」
そう言って、掴んでいた三咲の腕を放すと“フン”と言って立ち去った。
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