第232話 稀子の家で歓迎会 その2

 幸村さんにビールを注ぎ終えた後は、当然稀子の祖母にもビールを注ぐ。

 その間に稀子の母親と稀子は、手酌でビールを注いでいた。

 全員のコップにビールが注ぎ終わったタイミングを見て、幸村さんはコップを持って上に上げる。


「比叡君。鈴音さん!」

「これから大変な事だらけだが挫けずに、この地区での農業に大成を治めてくれ!」


「では、乾杯!」


『乾杯~~!』


 幸村さんの言葉の後、乾杯をして俺と鈴音さんの歓迎会が始まる。

 コップ同士の鳴らしあいは特になく、それそれがビールを飲む。

 俺は旅の疲れ等も有って、コップのビールを一気に空ける!


「ふぅ~~」


 俺が一息を付いた後直ぐに、幸村さんが俺にビールを注いでくる。


「良い飲みっぷりだね。比叡君!」

「そう言う男。俺は好きだよ!!」


 幸村さんは、笑いながらビールを注ぐ。


「あっ、ありがとうございます!」


「比叡君。今晩は、目一杯楽しんでくれ!」

「ビール以外にも日本酒や焼酎も有るから、遠慮無しに言ってくれ!!」


「あっ、はい」


(何か、本当に山本さんに見えるな……)


 俺はそう思いながら、新たに注がれたビールに口を付けた。


 ……


 歓迎会と言っても、晩ご飯の延長線上なので、おかずばかりで無く、ご飯や汁物も有る。

 稀子の祖母・母親も最初のビールは空にしたが、その後は注ごうとはしなかったし、稀子も父親が居る手前か、普段の様な飲みペースでは無く、ゆっくりと飲んでいた。

 鈴音さんも、ビールは最初の一杯で終えて、普通にご飯を食べていた。


(稀子の家は、こう言ったスタイルなのか…)

(普段からこうなのか、何時もこうなのかは分からないが、稀子の性格らしくない家だな……)


 酒で盛り上がっているは幸村さんと俺だけで有り、後の人々は一応会話も有るが淡々と食事を取っていた。

 感じ的に言うと……、盛り上がらない会社忘年会の感じで有った。

 歓迎会と言う、形式上の時間が流れていく……


 ……


 歓迎会の後は、幸村さんと俺での二次会に成る。場所は居間に移動した。

 歓迎会の二次会なので、鈴音さんも俺の側には居るが、アルコール類は飲まずにジュースを飲んでいる。


 鈴音さんも会話には参加するが、相槌が中心で有り、まるでお酒の席に同伴している女性の様にも見えてしまう!?

 稀子は母親達と歓迎会の後片付けをして居る。

 稀子は俺と鈴音さんにとっては大切な親友なのだが、幸村さんからの招待は無かった……


 楽しいような楽しくないような時間も過ぎて、二次会もお開きに成って、それぞれの自室に戻る。

 だが、今日の歓迎会に違和感を感じた俺は、部屋に戻る稀子を捕まえて、鈴音さんと一緒に、俺と鈴音さんの寝室に成る客間に向かう。

 客間のふすまを閉めてから、俺は稀子に聞いて見る。


「稀子。1つ聞きたいのだが」

「稀子の父親は…、普段からあんな感じなのか?」


「そうだよ」


 稀子は素っ気なく言う。


「今まで、何度か稀子の家に泊まったが、稀子の父親は亭主関白に見えなかったのだが……」


 俺がそう言うと、稀子は説明をする様に言い出す。


「まぁ……比叡君達がお客さんから、仲間と言うか上下関係に成ったからね」

「うん…。私の家はずっとそうだよ」


「そうか…。今までの態度が急変したから違和感を感じたが、今まではだったから、柔和にゅうわな態度だった訳か……」


「まぁ。そう言うこと!」

「比叡君にこんな事を言うのも何だけど……、お父さんは仕事には厳しい人だよ」

「……頑張ってね」


 稀子は、複雑な表情をしながら言う。


「俺だって、この世界で食べて行くのだから厳しいのは仕方無いが、殴られるのは嫌だな」


 俺が愚痴をこぼすように言うと……


「お父さん……機嫌が悪いと、物を投げる時が有るから気を付けてね…」


 稀子はとんでもない事を言う!?

 俺の人生、選択肢を間違えたか!?


「稀子の父親は、短気の人か?」


「う~ん」

「短気では無いけど、職人気質が強いかな?」

「職人だから、思い通りに成らないと直ぐにへそは曲げるね」


(下手な事を聞かなければ良かったな)

(幸村さん。フレンドリーな雰囲気が有ったけど、あれは俺を懐柔させる1つの手段だったか!)


「比叡君。りんちゃん」

「お父さんの性格は少し癖が有るけど、普段は優しい人だから安心して」


「鈴ちゃんには絶対手は出さないし、比叡君も怒鳴られる事は有るだろうけど、殴られる事は多分無いと思う」

「その辺は、地区の集会でも課題に成っているからね」


(この世界までも、暴力やパワハラの問題が入って来ている訳か…)


「お二人の邪魔をしては悪いから、私は部屋に戻るね」

「お休み。鈴ちゃん、比叡君!」


「あぁ、お休み。稀子」

「引き留めて、ごめんな!」


「稀子さん。お休みなさい」


 稀子は就寝の挨拶をして、部屋から出て行った。

 覚悟を決めて来た筈なのに、不安が蘇ってしまった!

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