第231話 稀子の家で歓迎会 その1

 俺と鈴音さんは広間に入ると、広間の真ん中に有る長机には、たくさんの料理が並んでいた。

 尾頭付きの刺身、天ぷら、茶碗蒸し、煮物と和が中心で有ったが、料理の品数からして、俺と鈴音さんは歓迎されている事は間違いないだろう。


「さぁ。比叡君、りんちゃん。座って♪」


 広間で最後の準備をしていた稀子は陽気な声で、俺達に座布団に座る事を勧める。

 俺と鈴音さんは、上座の方に座らせられる!


「比叡君はビールだろうけど、鈴ちゃんはどうする…?」


 俺と鈴音さんが座ると、稀子はドリンクを聞いてきた。


「私は、どうしましょうかね…?」


 鈴音さんや稀子は、既にお酒が堂々と飲める年齢で有る。

 稀子はお子ちゃまの割には、比較的酒が飲めて俺の中ではびっくりした!?

 鈴音さんも一応は飲めるが、俺や稀子程飲めない。


「……稀子。最初はビールで全員が乾杯だ!」


 稀子の父親である幸村さんが、低い口調で稀子に向けて言う。


「あっ…そうだね。お父さん///」

「我が家は、そうだもんね//////」


 稀子は父親に向けてそう言い、そそくさとビールを取りに行った!?

 今の時代…。酒の強要はしてはいけない筈だが、この家はまだ古いしきたりが有るようだった……


 現に、座布団に座って居るのは稀子の父親、祖母。俺と鈴音さんだけで有り、稀子の母親は広間にすら来ていなかった。


(稀子の家で、酒を含めた食事は初めてだが、こんな堅苦しかったっけ?)


 今まで何回か、稀子の家で食事を取ったが事が有るが、食事時にアルコール類が出るのは今晩が初めてで有った。

 今までも宿泊する時が何回も有ったが、その時は夕食時でもアルコール類は出ずに、全員で揃っての食事ばかりだった。

 只、夕食後に幸村さんは飲酒をしていたので、食事時には取らない家だと思っていた。

 俺も1~2回、幸村さんと酒を交わした事が有る。


(幸村さんは亭主関白か?)

(口調は優しそうだけど……怒らせると怖そうな人だし!)


(稀子の母親は明るい人には見えるけど……口数は少ない)

(どんな配合で、稀子は出来たのだろう??)


 俺がそんな事を考えていると、稀子とやっと現れた母親が、瓶ビールとコップを持ってやって来た。

 この様な家だからビールは、瓶ビールかなと感じたが、やっぱり瓶ビールだった。

 幸村さんは稀子の母親から瓶ビールを受け取ると、俺の方にビール瓶を差し出してくる。


「さぁ、比叡君!」

「長旅で、疲れただろう!!」


「!」


 幸村さんの言葉と仕草が一瞬、山本(孝明)さんと被る!!


(稀子が山本さんを意識したのは、父親の影響か……)


「どうした、比叡君!!」

「ビールは好きだろ?」


 幸村さんは俺がコップを持たないので、不思議そうに聞いてきた。


「あっ、はい。いただきます!」


 俺は幸村さんからビールを注いで貰う。

 俺の方を注ぎ終えると、今度は鈴音さんの方にビール瓶を持って行く。


「鈴音さん…。どうぞ!」


「あっ、はい…///」


 鈴音さんのコップにビールが注がれるが、実を言うと鈴音さんは、ビールが余り好きでは無い。

 ビールより、スパークリングワインの方が良いらしい!?

 流石、元お嬢様で有る。


 鈴音さんの母親。凉子さん、鈴音さんと一緒にお酒を楽しんだ事が有るが、二人共ワインが好きらしく、ビールは本当に軽く口を付けただけで有った……


(俺が幸村さんに、鈴音さんはビールが苦手と言えば良かったが、農地の貸出し者だし、立場も俺より上だ)

(さっきの口振りから見て、下手な事を言ったら農地を取り上げられるかも知れない!?)


 俺は山本さんの家で学んだ様に、幸村さんがビール注ぎ終えたら即、俺は近くに有るビール瓶を持って幸村さんに勧める。


「幸村さん。どうぞ…!」


「おっ、流石だね。比叡君!!」

「地区の中でも……最近これが、出来ない若者が多いんだよ……!」


「自分らは飲まないとか、そんな事した事が無いとかの理由を付けてな!!」


 幸村さんは口調を強めながら俺に言う。

 そんな事言われても困るのですけど……


 今の時代は、飲みコミュニケーションと言う言葉もすたり、一般社会でも仕事とプライベートの線引きが明確化に成った。

 昔は強制参加だった忘年会等の行事も、今は任意参加に成っている企業も多いと聞いた事が有る。


 飲酒運転の罰則も、法改正の度に厳しくなっており、コンプライアンスを遵守する企業も増えてきた。

 マスメディアも飲酒による事件や事故は、必ずと言って良い程、掲載や報道する様に成ったので、ブランドを汚したくない企業程、会社行事は減って居る。

 飲酒も多様化して、昔のようにビール・日本酒・ウィスキーの時代では無く成った。


 俺は苦笑いをしながら、幸村さんにビールを注いだ。


(俺も…山本さんに言われるまでは出来なかったし、しようとも思わなかった)

(あの人に、感謝をしなければ成らないな……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る