第229話 稀子の町に向かう道中 その3

 本線と接続した駅に到着した、俺と鈴音さんと稀子。

 この駅から特急電車に乗って、名美崎なみさきに向かい、名美崎駅でまた乗り換えて大石十色おおいしといろ駅に向かい、大石十色駅前に稀子の両親が迎えに来てくれる予定で有った。


 今の時刻は、11時半を過ぎた時刻。

 特急電車の発車時刻が12時を少し過ぎた時刻なのでまだ、時間は有るが……


「比叡君~~。お昼ご飯どうする?」

「電車の関係で、お店に入るのは難しいよね?」


 稀子が昼食を聞いてくる。


「昼ご飯か~~」

「俺は最悪コンビニ弁当でも良いが、鈴音さんどうしましょう…?」


 時間に余裕を持った行動は意識していたが、昼食までは考えて居なかった。

 相変わらず、段取りが悪い……


「……私が別れを惜しんで、時間を押して仕舞いました」


 鈴音さんは申し訳なさそうに言う。


「そっ、そんな事無いよりんちゃん!」

「ねぇ、比叡君!!」


「うん!」

「俺と稀子は特に食べたい物が有って、言った訳では無いから!!」


 また、此処で鈴音さんに落ち込まれても行けないので、俺と稀子は鈴音さんをフォローする。


「そうですか…。でも、昼食はどうしますか?」

「一応旅ですから、その旅の昼食をコンビニ弁当で良いのですか?」


(良くは無いが本音だが…、駅のコンコースを歩いて店を選んでいる時間も無い)


 俺はどうするべきかと悩んでいると……


「ねぇ、比叡君」

「同じ弁当なら、駅弁なんかどう!」

「私達は、特急電車に乗るのだから、車内での食事は問題なく出来るし、旅の風情も有るよ♪」


(流石、稀子!)

(その手が有ったか!!)


「鈴音さん!」

「昼食は駅弁にしましょう。俺も稀子の案に賛成です!」


「駅弁なら改札付近で販売している店も多いですから、駅弁を選ぶ事も出来るし、昼食も電車内で取れます!」


 俺は浮き浮き声で鈴音さんに言うが、鈴音さんは微笑まなかった。


「……駅弁ですか。電車内でのお食事は……」


 電車内での食事を嫌がる鈴音さん!?

 この人は、特急電車や新幹線で食事をした事が無いのか!?

 その言葉を聞いた稀子は、鈴音さんを説得し始める。


「鈴ちゃん! 恥ずかしがる事は無いよ!!」

「若い女性だって、平気で車内で食べたり、飲んだりしているよ!!」


(いや、いや、飲んだりまではしないだろ…)


 俺は稀子の突っ込みを入れたいが、話をややこしくする必要も無い。


「……時間も無さそうですし、比叡さんや稀子さんが、駅弁が宜しければそうします」


 鈴音さんは渋々言う。

 レストランとかの食事は良いのに、電車は駄目なのか?

 鈴音さんの思考が、時々理解出来ない時が有る。


 それでも、昼食は駅弁を、特急電車内で取る事に成ったので、駅弁が売っている場所に行って、それぞれが食べたい駅弁とお茶を買ってから、特急電車に乗り込む。

 無事に特急電車に乗る事が出来て、電車は名美崎方向に向かう。


 俺と稀子は普通に駅弁を食べたが、鈴音さんは恥ずかしそうに駅弁を食べていた。

 鈴音さんと逃亡旅行時(?)に、車内でジュースを飲んだ時は問題なかったのに?

 ジュースを飲むのと食事は、鈴音さん中で羞恥心を感じるのだろうか。


 車内で昼食を取った後は、3人で談笑を楽しみながら電車旅を楽しむ。

 鈴音さんの心の状態は、普段通りに戻って来ていた。

 この状態なら、大石十色駅に着くまでに完全に回復すると俺は感じた。


 ……

 …

 ・


 時刻は…、夕方に近い時刻と言えば良いだろう。

 俺達は無事に大石十色駅に到着した。

 俺にとっては『何も無い駅』で、頭の中で登録されている。


「着いたね~~♪」


 稀子は伸びをしながら言う。

 この駅に稀子の両親が、車で迎えに来る事に成っている。

 俺も就農関係で、何回か稀子の実家に赴いているが、此処から車で30分以上掛かる。


 稀子の実家は本当に山奥と言えば良いだろう。

 店も個人店しか無く、地域の結束力も九尾の時とは比べ程に成らない程強い。

 幸い、俺の近隣は優しそうな人ばかりで有るが、これが意地悪じいさんやばあさんが居たら地獄に成るだろう……


「あっ、お父さんの車が来た!」


 駅に稀子両親の車が到着する。

 俺と鈴音さんは、稀子の両親に挨拶しながら車に乗り込む。


「稀子のお父さん。今日から宜しくお願いします」


「はは。そんなに緊張しなくても良いよ。比叡君」

「まぁ……細かい事は向こうに着いてからだ」


 稀子の父親はそう言いながらハンドルを握り、稀子の実家に向かう。

 引っ越しトラックが来るのは明日だし、今晩は稀子の実家に、俺と鈴音さんはお世話に成る。

 既に何回か泊まらせて貰っているので、緊張感は無いが、それでもこれからの事に俺は緊張していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る