第226話 夢が実現する時…… その3

「おぉ! 真理江さん!!」

「まだ、居たか!!」


「もう、あの子達は出たかと思っていたよ!!」


 妹夫婦の男性が、真理江さんに運転席から話し掛ける。

 助手席には真理江さんの妹も同乗している。


「えぇ!」

「でも……そろそろ出発の時間です。寂しいですど…」


「真理江さん、兄ちゃんや嬢ちゃん達!」

「最後に言っちゃあ何だが、駅まで送って行くよ!」

「兄ちゃん達の、此処からのバス代も馬鹿に成らないからな!!」


 男性は陽気な声で、真理江さんや俺達に向けて言う。

 妹夫婦が、真理江さんに気を利かしたのだろう。

 妹夫婦が車で、俺達を駅まで送ってくれれば、それだけ別れの時間が伸びるからだ。


「青柳さん…」

「妹夫婦が駅まで送ってくれるそうですか、どうしますか…?」


 真理江さんは俺に意見を求めてくるが、断れる訳が無い!


「はい。では、ご厚意に甘えて……」


 ……


 バスでの移動から、真理江さん妹夫婦の車で駅まで送って貰い……更に妹夫婦と真理江さんは、駅の入場券を買ってホームまで見送りに来てくれる!

 その時間までの間……鈴音さんは本当に、別れを惜しむ様に真理江さんに話し掛けていた。

 後、約10分前後で電車が来る…。俺達が九尾に居られる時間でも有った。


「兄ちゃん!」


 妹夫婦の男性に、急に声を掛けられる。何だろう……


「はい…?」


 すると……男性は、祝儀の袋を俺に手渡してきた!?


「俺は要らんと言ったのだが、母ちゃんが渡せと言うからな!」

「これから親戚関係に成るのだし『道筋だけは付けろ』と言うからさ!!」


(相変わらず、余計な一言が多いな…)


 これを断る訳にも行かないから、素直に祝儀を受け取る。


「すいません…。有り難く頂きます」


「……まさか兄ちゃんが、美作の鈴音ちゃんと、農業をやるとは夢にも思ってなかったよ!」

嬢ちゃんめるこのお膝元で、営農するらしいから問題は無いだろうか、しっかりやれよ!!」


 男性はそう言いながら、俺の肩を『ポン』と叩く。


「はい!」

「有り難う御座います」


「でっ……籍は何時入れるのだ。兄ちゃん!!」


「籍ですか…。籍については……落ち着いてからですね」

「本当の夫婦生活を始めてからの方が、お互い良いかと……」


「でも、兄ちゃん。暢気に考えて居るが助成金の問題も有るだろ!」

「役所はその辺が五月蠅いから、夫婦で貰う(申請)なら落ち着いて何て居られ無いぞ!!」

「向こうで直ぐに就農なんだろ!? 兄ちゃん、単体なら良いが……」


「それも、そうですね……。大体の申請書類は完成・申請していますけど、最終確認を取ってみます」


「そうした方が良いぞ! 役所は四角四面だからな!!」


「後……式を挙げる時は、俺達も呼べよ。向こうで挙げようが、真理江さんや俺達は絶対出るから!!」」

「縁故だろうが、親戚には変わらないからな、がははは!!」


 今度は、強く肩を叩きながら男性は言う。痛いのですけど……

 悪い人では無いが、やはりこの人は苦手だ……


(入籍や結婚式…。普通は結婚式を挙げてから入籍だと思うが、俺と鈴音さんの場合は逆に成りそうだな)

(住民票を異動させてから、籍の事も鈴音さんと話し合おう…)


(そうすると……いよいよ、俺の両親に連絡を入れないと行けないな)

(入籍や結婚式は人生の一大イベントだ……これを機会に親に全て報告するか…)


(だが、絶対に文句を言われるだけでは済まないな…)

(いきなり就農・結婚と報告したら、普通の両親なら絶句するだろう!)


 妹夫婦男性の言葉で、俺は両親の事を改めて考える。

 男性は、それ以上の言葉を掛ける事無く、俺の元から離れて行った。


 ……


 遂に、この町との別れの時が来た。

 電車がホームに入ってくる。

 俺が代表と成って、最後の言葉を述べる。


「真理江さん。妹夫婦さん」

「今まで、本当にお世話に成りました!!」

「鈴音さんと力を合わせて、稀子の町で頑張っていきます!!」


「青柳さん!」

「鈴音さんと幸せに成ってください!!」

「稀子さんも、お仕事頑張ってください!!」


「兄ちゃん、鈴音ちゃん!!」

「頑張れよ!!」


「嬢ちゃんも、元気でな!!」


 俺の言葉の後、真理江さん、妹夫婦男性が声を掛ける。


「みなさんには、本当にお世話に成りました…」

「本当に感謝しきれません……」


 鈴音さんは涙を滲ませながら言う。


「おばさん、妹夫婦のおじさん!」

「ありがとう~~」


 ……稀子は、何時も通りで有った。

 言葉が終えたタイミングで、停車した電車の扉が開く。

 俺と稀子は普通に乗り込むが、鈴音さんはゆっくりと乗り込んだ。


『ピィ~~~♪』


「みなさん~~、お元気で~~~」


 真理江さんの言葉と発車の合図が同時に響く。


「お母様! また、会いましょう~~~」


 鈴音さんは泣きながら言う。

 本当の親子の……別れの様だった。


 無情にも電車の扉は閉まり、電車がゆっくりと動き出す……

 長い九尾での生活も、本当の終わりを迎えた……

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