第219話 現状維持……

 しばらく時が流れて……


 俺の中では記憶の片隅に追い遣られていたが、山本さんが起こした交通事故被害者の民事裁判が、やっと決着を迎えた。

 真理江さん側の弁護士が優秀だった御陰か…、当初の予想よりも少ない金額で判決が下されたそうだ。

 被害者側も2年以上の時が経っている所為か、控訴はしないらしく、これで決着が着きそうだった。


 結果論で言えば、真理江さん自身も蓄えが有るため、土地と家屋を売却する必要性は無かった位の賠償額で済んだが、裁判の結果次第ではどう成っていたかは判らない。

 けど、これで、終わったとは言えなかった……


 現在、出所後の山本さんを南取島で軟禁する方向で話が進んでいるが、……やはり本家は真理江さんに見返りを要求してきた。それも金銭で要求してきた。

 真理江さんが交通事故の賠償に備えて、土地と家屋を売却した事を本家は知っているし、民事裁判の結果も知っている。


 山本さんを軟禁するための、長期滞在施設の施設利用料や食費。監視人の人件費や雑費等の諸経費を見返りという形で要求してきた。

 見返りだから請求書等の書面は一切無くて、口頭で金額を言われたらしい。

 山本さんを実質、一生軟禁するので、その金額も凄まじく……土地と家屋を売却した金額に匹敵する金額を本家は求めてきた!?

 山本さんの年齢が大体30代付近だから、一生の軟禁費用と考えると、それ位に成るのかも知れないが…?


 真理江さんは当然反論したが……本家に勝てる訳は無く、落とし所として売却金から、賠償金と税金を差し引いた金額を、本家に支払うと言うか献上する事に成ってしまった!!

 真理江さんの土地と家屋を売ったお金は、実質本家に取られてしまった。

 本家はやはり抜かりは無かった……


 真理江さんも『こう成る事は予想していたが……全部持って行くとは流石にあくどいね…』と言っていた。

 売却金を全て持って行かれると、真理江さんの生活に影響が出ると感じたが、意外にそうでも無かった!?


 山本鞄店時代からの貯蓄も有る程度有るし、夫の交通事故時の生命保険や相手側からの保険金等が十分に有るので、生活面に大きな問題はないらしい。

 本家も馬鹿では無いので、その辺もきちんと調べ上げて、その金額を要求したのだろう。死なない程度に絞り上げる事を……


 これで、真理江さんは息子(孝明)の問題を全面解決に持って行ける。

 前回の俺に対する復讐で、真理江さんは孝明さんと絶縁したそうだ。


 殺人未遂では無く、銃刀法違反で起訴された山本さんは、執行猶予の付かない懲役8ヶ月の判決と成り、また塀の中で暮らしている。

 勿論、島流しの事を本人には知らせていない。

 それを知ったら、山本さんは脱獄をするかも知れないからだ!?


(きっとあの人の事だ…。今でも俺に復讐する事を夜な夜な考えて居るだろう)

(今度こそ……俺と鈴音さんを確実に殺す方法を……)


 安心を買うためには、島流しは仕方が無い行為かも知れないが、俺もやはり鈴音さんの言う通り、本家との関わりは極力避けるべきだと感じた。


 鈴音さんの祖父母や真理江さんは見返りを出来たが、俺は見返りをする金銭も無いし土地も無い。

 その前に見返りが期待出来ない奴に、支援はしないと思うが……


 ……


 見掛けでは何時も通りで有る鈴音さんと稀子だが、俺と鈴音さんの関係は微妙な関係に成っていた。

 表面上では問題ないが、2人きりに成る時間を鈴音さんは凄く嫌がっていた。

 性行為も復讐事件以来していないし、キスもしていない……

 鈴音さんの中では、未だに俺と農業をする覚悟が出来ていないのだろう。


 稀子も最近、自室に籠もる時間が増えて、以前ほど団らんをする時間が減った感じがする。

 稀子の部屋前を通ると、誰かと通話している声が聞こえる時が有るので、もしかしたら彼氏でも出来たのかも知れない!?


 俺も今は一人前に成るのが目標なので、将来に関する話は鈴音さんには一切話さないし、稀子との関係も、適度な距離を保つ様にしている。

 仕事の方は夏の時期で有り、凄く大変だが『修行!』と言い聞かせて日夜励んだ。


 ……


 今年の夏は、みんなで海に行く計画を俺の中では立てていたが、実現する事は無かった。

 お盆の時期は、鈴音さんや稀子はそれぞれ実家に帰って、真理江さんも俺とは居たくなかったのか、その期間は妹夫婦の家に行ってしまった!?


 真理江さんからは『私と居るより、1人の方が気楽でしょ』と、俺に配慮してくれた感は有るが……真理江さんも俺と居るのが嫌だったのだろう…。息子を追い込んだのは俺が原因だから。

 そんな感じで大きなイベントは発生せずに、静かに夏が終わろうとしていた……

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