第218話 どれが彼女の本音!? その3

「ひっ、比叡さんも…、少し落ち着いてください//////」


 俺が稀子に強く当り過ぎているのが、流石に鈴音さんの目に余ったのか制止してくる。


「稀子さんは、比叡さんの事を思って進言したのです」

「少し言い過ぎですよ……」


 鈴音さんは、少し顔をしかめながら言う。


(何が言いすぎだ!)

(元を言えば、平穏な生活をしたいと言い出した鈴音さんだろうが!!)


 俺の中で沸々と…、怒りが湧き始めていた。

 何で、こんなに人生苦労させられるのだ!

 俺だって、鈴音さんと平穏に暮らしたいに決まっている。


「比叡君…。ごめん」

「比叡君が其処まで、就農に拘っているとは思わなかった…」


「……さっきの話は、聞かなかった事にして」

「両親に相談しても出来る事は、農業法人への紹介か運が良くて、農事組合法人の担い手紹介に成るから……」


 稀子は半べそ状態で言う。

 俺だって、此処まで言うつもりは無かった。

 けど……これで、俺の就農への道は絶たれたも同然で有った。


「そろそろ、後片付けをしましょう…」


 鈴音さんは俺の問いの返事をせずに椅子から立ち上がり、食事後の後片付けを行い始める!?


「だね…」

「明日も休日だけど、これ以上話しても問題の解決は出来ないし……」


 稀子も諦め口調で言い、後片付けを始める。

 今の稀子は、俺と鈴音さんの関係なんか気に留めて無いのだろう。

 クソ……これでは、俺が完全に悪者では無いか!!


「……」


 俺も無言で後片付けを始める……

 この日の後片付け中は本当に会話が無く、無言で終わってしまう……


 晩ご飯の後片付け後は、順番にお風呂に入っていて、各自が部屋に戻ったが鈴音さんや稀子は生気を無くした状態で有った。

 鈴音さんは俺と農業をする不安…。稀子は俺の予想外の反論で意気消沈してしまった。


 比叡の自室……


 俺は今、布団で寝転んでいるが、素直に寝られる状態では無かった。


(手の打ちようが無いな……)


 俺も何時かは就農をと考えて居たが…、鈴音さんが彼処まで煮え切らない人だとは思わなかった。

 稀子の提案も本当にぬか喜びだし、俺が今出来る事は農業法人で先ず、1人前に成るしか方法は思い付かなかった……


(真理江さん妹夫婦を頼る手も有るが、あの男に頭を下げたくは無いし、農業サラリーマンでも頑張れば、人並の生活は出来るだろう……。現に今の会社でも、家庭を持って居る先輩達が沢山居る)

(山本さんの再攻撃が無ければ、俺はこの町で骨をうずめる選択肢も出て来る)


(鈴音さんが大学を卒業するまで、まだ2年近くも有るし……それまでに俺を捨てないよな!?)

(嫌な事を押し付けたくは無いし、鈴音さんだって平穏な生活と言いながら、心の奥底では煌びやかな生活を望んで居る気がする)


(稀子には少し言い過ぎたから……明日の朝、直ぐに謝ろう)

(稀子は俺の事を思って言ってくれたのだ)

(当面は、現状維持の生活を強いられるな……)


 色々と考えて居る内に……俺は眠りに就いていた。


 翌日……


 俺は朝食前、稀子に昨夜の事を謝ったが『気にしてないから良いよ…』と、弱々しく言うだけで有った。

 鈴音さんの方は普段通りに接してくれるが、心の奥底からの笑顔や表情は見られなかった……

 唯一、穏やかな表情をしているのは真理江さんだけで有った。


 山本さんを南取島に島流しにする事の素案を、本家が受け入れるからだ。

 昨夜、俺達に了承を貰った後、真理江さんは本家に電話連絡を入れて、話を大幅に進展させた。

 今直ぐの事態では無いし、無駄に遊ばせて有る保養地を活用出来るなら、本家も悪くないと考えたのだろう。

 どれだけの見返りが、真理江さんに要求されるかは未知数だが……


 山本孝明、南取島島流しが決行されれば、本当の安泰が俺達にやって来る。

 俺や鈴音さんが復讐をされる心配は無くなるし、真理江さんや稀子も安心出来る。


 俺が一番恐れているのは、南取島でも山本さんの暴動・暴走だが……その辺の最悪の対策も講じる様だし、俺もそれ以外の妙案は浮かばない。

 本音を言えば、今は自分自身の事で精一杯だった……


 俺が農業法人で1人前に成るまでの間は、就農に関する話は封印して、鈴音さんの心変わりを期待するしか、俺には方法が無かった。

 稀子は……数日もすれば、元気を勝手に取り戻すだろう!

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