第217話 どれが彼女の本音!? その2

「稀子の家は農家だから、稀子の親からの紹介で俺は就農が出来るのか!」


 稀子の言葉で、俺は先走った事を言ってしまう。

 けど…、そんな簡単に出来ない事は直ぐに気付く!


(待て、待て!)

(農地を借りる手続きが色々と大変な事を、職業訓練時代の座学で習ったではないか!)

(稀子はその辺の知識が無く、今まで見た経験で言っているから鵜呑みは駄目だ!)


「おっ、比叡君、頭良いねぇ~~」

「簡単に言えば、そんな感じ♪」


 暢気に言う稀子…。行政の続きの大変さを稀子はまだ知らないのだろう。

 親に頼めば何とか成ると……けど、稀子に頼るのも1つの手かと考える。


「それだと、地の利を理解している稀子や知っている鈴音さんも安心出来るし、波津音市はずねしにも近いから、鈴音さんも受け入れてくれるかも知れないね」


「比叡君が本気なら、近日中に両親に相談してみるよ♪」


 稀子の言葉は本気で有る様だ。

 一気に就農が……現実味を帯びてきた!


「俺としては農業法人で勤め続けるより、出来れば就農したい」

「それに稀子の両親が協力してくれるのなら、知らない土地で就農するより遙かに良い!」


 今、勤めている農業法人は俺が半人前のも有るが、他の先輩社員が自立(就農)した話は聞いた事がないし、話題にも成らない。

 俺の勤めている農業法人の規模は年々大きく成っているらしく、それに伴い社員も増えていると上役から聞いた。


 けど、この農業法人は担い手にないてを従業員として雇い、自立(就農)を促す所では無い感じがした。

 社会保険も完備されており、そのため、普通のサラリーマンと何ら待遇は変わり無かった。


「うん!」

「比叡君の気持ちは分かったけど、……問題はりんちゃんだね!」


「鈴ちゃん。さっきの話を聞いていたと思うけど、鈴ちゃんの気持ちはどう?」

「私の地区で、比叡君と農業をするのは?」


 ずっと無言だった鈴音さんが、やっと口を開く。


「……話が、飛躍的過ぎますね!」

「私がどうこう依りも、まだ半人前の比叡さんを、稀子さんの両親に委ねるのですか?」


 鈴音さんは反対寄りの意見を言う。

 やはり……鈴音さんは俺と農作業はしたくないのか。


「鈴ちゃん…。私が両親にお願いしても直ぐにはムリだよ…。相談したからと言って、数日で決まる物では無い」

「私の家は……比叡君を雇う規模でも無いし、そもそもお給料を満足に出せない」


「……話が矛盾していますよ!!」


 きつめの口調で言う鈴音さん!?

 あなたは何がしたい!?

 本当に俺を当て馬にするつもりか!??


「えっとね、良く聞いてね。鈴ちゃん…」


「初めから聞いていますが……」


 思いっきり不満げに言う鈴音さん。

 あの天使の微笑みをする鈴音さんは、何処に行ってしまった!!


「さっき言った通り、私は両親に比叡君と鈴ちゃんの事を相談する」

「それを聞いた両親は、地区の有力者や組合の所に話を持って行くの」

「有力者や組合が比叡君の事を了承すれば、土地を借りるか地区の農事組合の担い手(職員)に所属する流れに成る……」


「えっ!?」

「稀子…。稀子の地区で就農では無いの??」

「担い手とは聞いて無いぞ!!」


 稀子が話している内容に食い違う事に気付いて、俺は慌てて質問をする。

 就農の話なのに、農事組合法人が出てくると成ると話が違うからだ。


「比叡君!」

「私は協力するとは言ったけど、就農させるとは言ってないよ!!」


 ここで逆ギレをする稀子!?

 鈴音さんからも詰め寄られて、俺からも問い詰められたから、稀子の許容範囲を超えてしまった。

 それでも、稀子は冷静を装いながら話を続ける。


「勿論、比叡君に農地を貸してくれる人が居れば、比叡君は就農が出来るけど、私の地区も高齢化と過疎化が進んでいて、農業法人が進出しているし、地区の農事組合法人も有る」


「そりゃあ……、私だって比叡君には就農して欲しいけど、鈴ちゃんの言う通り、の比叡君に土地を貸す奇特な人は居ないと思う」

「比叡君に農地を貸すなら、法人委託や組合に託すから……」


「……なら、稀子。俺はどうすれば良い」

「折角、稀子の実家が有る町に行っても今と同じ様な仕事だと、無理をして行く必要が無いでは無いか……」


 俺も冷静を保ちながら言うが、ぬか喜びの事も有って、怒りを感じ始めていた。


「そんな事無いよ! 比叡君!?」

「農事組合法人の担い手に成ったら、地区を束ねる事に成る訳だから、色々な面で全然違うよ!」


「そうは言うが稀子。それでは、今と変わらないでは無いか!」

「稀子の家は法人委託もしていないし、農事組合法人の組合員では無いのだろ?」


「組合員だったら、農地を託してしまうからな!」

「そんな都合良い展開が、本当に起きると思っている!?」


「そっ、それは……両親に相談してみないと……」


 稀子は表情に変わってしまう。


「それに……農事組合法人は、地区のお偉いさんが仕切って居るのだろ」

「そんな所……俺みたいな能力では相手にされないよ!」


「うっ……」


 言葉を詰まらす稀子。稀子の案は無謀過ぎる……

 有る程度の農業知識は持っているが、俺だってその辺の部分は座学で習った。

 暗礁に乗り上げて座礁してしまった……

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