第205話 悪夢の再来 その3

「孝明さん…。再度、罪を償ってください」

「今なら、まだ間に合います……」


「敏行……。間に合うも糞も無いのだがな……」

「母親にも見捨てられ、帰る場所は変な飯屋に成っていて、敏行や仲間も俺を裏切った……」

「長井(鉄工所)まで縁を切ってきた時は、流石に暴れてやったがな!」


「僕にとっては比叡を殺すしか…、生きがいが無いのだよ……」


(仲間を失い、自暴自棄に成るのは理解出来ない事は無いが……山本さんはやり過ぎた)


 俺は迂闊に山本さんに声を掛ける事は出来ないが、此処で鈴音さんが山本さんに話し掛ける。


「孝明さん…。稀子さんをストーカーしていたのは孝明さんですか…?」


 偽装していた山本さんに、俺が道を聞かれた日の晩。

 稀子からストーカーを受けている話を聞いた。

 その翌日から、稀子から姿を急に消したのは、山本さんが俺を見付けたから、稀子にストーカーをする必要性が無く成ったからだ。


「……あぁ。そうだよ。馬鹿女は警戒心が無いからな!」

「凄く簡単に、比叡を見付ける事ができたよ」


 山本さんは不気味に笑いながら言う。

 俺は思わず身震いする!!


「……最低ですね」

「稀子さんを馬鹿女呼ばわりするのも許せませんが、どうして、此処までして比叡さんを恨むのですか!」


「比叡を恨む?」

「お前も対象だよ! ビッチが!!」


「!!!//////」


「お前らの幸せは必ず潰す!!」

馬鹿女めるこは……馬鹿女だからな!」


「アレを殺しても、犯しても、僕は快感を得られないから、アレはアレでお終いだ」


 元彼女の鈴音さんに向けて言う言葉では無い。

 俺は酷く怒りを感じたが……殴り合いで勝てる相手ではない。

 山本さんが更に言い掛け様とした時に、パトカーが横付けで到着する。

 パトカーから飛び出す様に出て来た2人の警官は、俺達の方に向かって来る。


「刃物を持った男が、人を刺そうとして居るとの通報を受けましたが!」


(……山本さんですと言いたいけど、言いにくいな)

(山本さんを此処まで追い込ませたのは、俺にも有る訳だし……)


「この人です!」

「この人が、私の彼氏を殺そうとしていました!!」


 鈴音さんが、甲高い声で言いながら山本さんを指す!!


「彼氏…?」

「では、え~~、女性の方はこちらの男性の方と付合っていると…?」


「はい!」

「刺そうとした人は、私の元彼です!!」

「私が一方的に振ったので、この様な事が起きてしまいました!!!」


「???」


 鈴音さんの話を聞いている警官は、理解できていないようだ。


「君は、何処か怪我をしたかね?」


 もう1人の警官が、俺の状況を聞いてくる。


「怪しい感じがしましたので、避ける事が出来ました!」


「そっ、そうか…!」


 俺が怪我をしていない事を聞いた警官は、鈴音さんの方に居る警官に向かう。


「何だこれ? 痴情の縺れもつか!」

「被害者も出ていないし、どうする?」


「……被害者は出ていないが、ナイフを持っていた以上、其奴を銃刀法違反で検挙するしか無いだろう」


 警官2人は、何か打ち合わせをして居る感じで有った。

 山本さんがナイフを持って暴れていたら、有無言わずに現行犯逮捕だが、ナイフは俺が持っているし、警官が到着して最初に見た現場は、男女間のトラブルにしか見えないからだ。


「1台では乗り切れないな…。応援呼ぶか……」


 警官の1人がパトカーに戻り、もう1人が俺達に向かって来る。


「詳しい話を聞きたいので、署まで同行願います…」


 警官はそう言うが、山本さんを銃刀法違反で逮捕をしようとはしない?


「あなた達カップルと、コートの男と……君もかね?」


 警官は敏行さんを見ながら言う。


「この人の親友です…。親友が危険な行為をしようとしていたので止めさせました」


「……」


 警官は『面倒な事件を引き受けたな…』の表情をしていた。

 山本さんも逃げ出さないし、警官も対応に困っている感じで有った。


 しばらくして、応援のパトカーが来る。

 俺と鈴音さん、敏行さん。山本さんは別のパトカーに同乗して警察署に向かう。

 デートは台無しにされたうえ……山本さんは俺と鈴音さんを完全に敵視したし、今後の事を考えると不安で堪らなかった……


 ……


 警察署で俺と鈴音さん、敏行さん、山本さんがそれぞれ取調べとりしらを受ける。

 山本さんが銃刀法違反で逮捕されるのか、殺人未遂で逮捕されるのかは不明だが、鈴音さんは山本さんを強く糾弾していた……

 稀子を馬鹿にした事も有るだろうが、それでも鈴音さんは珍しく感情的に成っていた。


 俺は成人だが鈴音さんが未成年の為、保護者による引き取りが必要らしく、警察から真理江さんに連絡が行っている。真理江さんと鈴音さんは本当の親戚関係だから問題は無い。

 真理江さんも、再度息子が事件を犯したのだから、複雑な心境だろう……


 当然、稀子も知る事に成るし、真理江さんと稀子も俺達が居る九尾きゅうお警察署に向かっているだろう。

 俺と鈴音さんの取調べは1時間位で終わり、後は真理江さん待ちで有る。

 この生活はどうなるのだろうか……

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