第195話 絶望の中での面接

 作文と筆記試験も終わり、後は面接をすれば選考試験は終了で有る。

 面接は受験番号順と成っており、俺は時間的に言うと1時間位は面接待ちに成る状態で有った。


 作文はさておき、筆記試験は失敗に近い状態で有った。

 面接でどれだけ挽回出来るかは分からないが、俺は面接を絶対に成功させなければ無かった……


(聞かれる事はどうせ、志望動機とかだろうけど、どもらずに話さないとな)


 この待機時間の間は私語が厳禁なので、面接待ちの人は静かに待っている。

 しかし、トイレは自由に行けるので問題は無い。

 俺は面接までの時間。外の景色を見ながら上手に時間を潰した……


 ☆


 面接の番が来て、面接が始まる。面接官は2人で有った。

 最初の質問は志望動機かと思っていたが、1時間目に書かされた作文からの質問だった。


「……青柳さんは、幼少の頃から農業に興味を持っていたと書かれていますが、どうして興味を持つ様に成ったのですか?」


「はい!」

「近所の人が夏の時期が近付くと、キュウリやナスを庭先で栽培していて、それをお裾分けして貰った時、食べ物が身近に作れる事を知り、そこから興味を持つ様に成りました」


「では、何故。その時から農業の道に進もうとは感じなかったのですか?」


「その当時も農業を意識していて、母親に相談した事が有りましたが、母親は反対しました」


『農業はこれからの時代では無い』

『それに我が家は、農家の親戚も居ない』


『比叡は普通のサラリーマンに成りなさい』と言われました。


「……当時の母親に反対されても、今、改めて農業の道に進むと?」


「はい…」

「私は今、知人の家でお世話に成っています」

「その方はとてもわたくしを気に掛けてくれます」


「この職業訓練の事を教えてくれたのも、知人の御陰です」

「その事と幼少の頃を思い出して、農業の道に進む事を決意しました」


「……」


 面接官はしばらく無言に成る。

 これで質問が終わりなのか、解答を間違えたか……


「私からの質問は、以上にさせて貰います」


 面接官はそう言い、次の担当に変わった。

 面接官の表情に特に変化が無かったから、間違った事は言って居ないはずだ。


 その後も面接がしばらく続くが、家族構成や訓練をやり抜ける等の質問が中心で有った。

 時間的に言うと、20分位で面接が終わる。面接終了後は各自解散なので、これで選考試験は終了で有る。


 俺は職業訓練校から出る。

 スマートフォンで時刻を確認すると、11時30分前で有った。


(昼前か…)

(駅前で昼飯でも食べて、家に戻るか……)

(面接はまずまずの手応えで有ったが、筆記試験のミスは大きいだろうな…)


 幾ら筆記試験の時間が短いとは言え、英語の問題を全面白紙で出すのは痛恨の痛手で有る。

 試験担当は、どう受け止めるのだろうか?


 うっかりさんで見るか、英語が全く出来ない子と見るか、問題の確認も出来ない人と見られるか……どちらにせよ、マイナス要素でしか無かった。


(筆記試験のミスの事は、真理江さんや鈴音さんには報告しないで置こう)


 この選考試験は、採点結果が手元には残らない。

 分かるのは、合格・不合格のみで有る。

 選考基準の方法は、知りたくても知れないシステムで有った。この辺がお役所と言うべきか。


(試験結果は郵送のみだし、それを知るのも来週の週末だ)

(俺の中では、7割以上落ちている感じはするが、それまでは普通に過ごして、鈴音さん達に余計な心配はさせたくは無い)


 今回の試験は筆記試験のミスが、全て足を引っ張っている。

 合格よりも不合格の可能性が遙かに大きいが、万が一の事も有りうる!?

 俺は厳しいと感じながらも望みを掛けて、職業訓練校を後にした……

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